チョコレート価格上昇の影にある「カカオ同盟」の戦い
力関係による価格決定
カカオ豆が値上がりしてこなかった理由としては、需要と供給という市場メカニズムによるというより、当事者、つまり生産者と買い手の力関係の結果の方が大きい。
世界全体のカカオ豆生産のかなりの部分をアフリカの貧困国が占めている。とりわけ第1位のコートジボワール(41パーセント)と第2位のガーナ(15パーセント)の生産量は、世界全体の6割近くにのぼる。
一方、カカオ豆を大量に買い付けているのは先進国企業だ。チョコレートに関わる企業からなる連合体、世界カカオ基金にはネスレ、ユニリーバ、スターバックス、ロイズ、ゴディバなどの欧米企業だけでなく日本の有名製菓メーカーも名を連ねていて、そのメンバーの合計が世界のチョコレート市場の約8割を占めている。
もともとカカオ豆市場は資金力のある買い手の交渉力が強く、生産者価格は最終商品単価の約6%以下といわれる。
この構図はカカオ豆農家の貧困を固定させてきた。最大の生産国コートジボワールのカカオ豆農家の場合、平均所得は年間2,707ドルにとどまると報告されている。これは国際的に「極度の貧困」とみなされる年間2,276ドルをわずかに上回るに過ぎない。
この構図があるからこそ、チョコレート値上がりは我々一般消費者にとって「まだマシ」なレベルでとどまってきたともいえる。もちろん、それは生産者にとっては全く「マシ」な話ではない。
単価引き上げの戦い
とはいえ、この構図には今後変化する兆しもみられる。カカオ豆の大生産国、コートジボワールとガーナが生産者価格引き上げに向けて結束してきたからだ。
コートジボワールとガーナの両政府はコロナ禍以前の2019年6月の段階ですでに、海外企業との間でカカオ豆の最低価格を1トンあたり2,600ドルにすることに合意していた。この合意には1トンあたり400ドルを農家の利益(プレミアム)として保障する仕組みも導入されている。
この合意は両国政府が農家への適正な利益の配分を求めるなかで実現した。
「貧困国の農家を買い叩いている」といわれたくない海外企業は渋々これに応じたといえるが、その後も現場レベルではプレミアムが支払われないことも珍しくなく、さらにコートジボワールとガーナ以外ではこの合意が適用されない。
そのため、先述のように、2019年以降も世界平均でみれば1トン2,500ドルを下回る水準で取引されてきた。
こうした状況にコートジボワールとガーナは海外企業と繰り返し交渉を続けたが、大きな成果が得られなかった。
そのなかで昨年10月、コートジボワールとガーナは賭けに出た。ベルギーで開催された世界カカオ基金の会議をボイコットしたのだ。生産者価格の実質的な引き上げに消極的な海外企業への異議申し立てだった。
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