コラム

W杯開催地カタールへの「人権侵害」批判はどこまで正当か

2022年11月22日(火)21時25分
カタールサポーター

開幕試合前にスタジアムにきたカタールサポーター(2022年11月20日) Bernadett Szabo-REUTERS

<招致時の不正や人権侵害を理由に「W杯を主催する資格はない」とカタールを批判する欧米だが、それらの国がどれだけ批判する権利をもつかについては議論の余地がある>


・中東で初めて開催されたサッカーW杯カタール大会をめぐっては、招致決定の不透明さや大きすぎる規模などに関して、欧米で批判が噴出している。

・批判の一つにはカタールでの人権侵害があり、そこにはスタジアム建設などでの外国人労働者の劣悪な労働環境の他、イスラームの教義に基づく女性の権利制限などがある。

・しかし、欧米が人権保護に熱心であることは確かでも、熱心であるがゆえに「自分のことを棚にあげる」傾向も鮮明になりやすく、サッカーはその象徴ともいえる。

先進国の基準からみてカタールに人権侵害があることは否定できないとしても、それを先進国がどこまで批判する権利をもつかには注意が必要だ。

批判を招くカタール大会

11月20日、カタールでサッカーW杯が開催された。今回のW杯は初めて中東で開催されたものだ。

しかし、とりわけ欧米ではこれまでになく物議をかもしていて、なかにはTVのW杯中継を取りやめるスポーツバーも続出するといった拒絶反応もある。

「カタールにW杯を主催する資格はない」という主張の大きな理由は、以下の4つにまとめられる。

(1)カタール大会の招致で大規模な不正があったという疑念

(2)スタジアム建設などW杯開催の準備では外国人労働者の搾取や酷使といった人権侵害が横行したという批判

(3)イスラームの教義に基づく統治が行われるカタールでは、女性の社会的権利が制約されがちである他、同性愛が法的に禁じられるなど、ジェンダー平等とかけ離れているという批判

(4)イスラームの教義に従ってカタール大会ではスタジアムなどでの飲酒やアルコール販売が禁じられたことが、ビールやワインを飲みながらスポーツ観戦する欧米の習慣と合わないこと

その他、近年のスポーツイベントでは持続性の観点からコンパクト化が進んでいるが、カタール大会では大会費が2000億ドルという破格の規模にのぼると予測されることも、懸念を招いている。

批判はどこまで正当か

以上のポイントの多くは以前から指摘されてきたことで、筆者も去年の段階で取り上げた。だから、こうした理由からカタール大会を批判する声があがることも理解できなくはない。

カタール大会の招致では、買収攻勢が大規模に行われたという疑惑がある。この疑惑に関しては徹底した調査が必要だが、FIFAがその調査に必ずしも積極的とはいえないことが、批判に拍車をかけている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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