コラム

中国がウクライナでの停戦を呼びかけ──その真意はどこにあるか

2022年09月29日(木)11時40分

中ロはしばしばワンセットで語られる。確かに両国政府には共通項も多いが、一枚岩ではない。国連総会で3月2日に行われたロシア非難決議で、北朝鮮、シリア、ベネズエラなどはこの決議に反対票を投じたが、中国は「欠席」というグレーな対応をとった。

これはアメリカだけでなく、ロシアとも一定の距離を置くという姿勢を示唆する。

冷戦時代から中国は、対アメリカではロシア(当時のソ連)と協力しても、運命をともにするつもりもない。ストックホルム国際平和研究所によると、中国がロシアから輸入する兵器額は2000年に22億3100万ドルだったが、2021年には7億7300万ドルにまで下落した。

ここからは中国が経済発展や技術革新に比例してロシアへの軍事的な依存度を減らしてきたことがうかがえる。

一方、トランプ政権期にエスカレートした米中貿易摩擦に収拾の目処は立たないが、それでも中国にとってアメリカは今も最大の貿易相手国だ。IMFの統計によると、昨年度の中国の対米輸出額は5776億ドルにのぼり、過去最高額を記録した。

いわば中国にとっての優先課題は、ウクライナより台湾、ロシアよりアメリカといえる。

だとすると、ウクライナ停戦をアピールすることは、それでなくとも厳しい交渉が見込まれるアメリカとの間で、多少なりとも障害物を減らすことにはつながる。

こうしてみたとき、中国による停戦の呼びかけは、表面には現れにくい国際政治のあやを浮き彫りにするのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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