コラム

ウクライナ侵攻で進むロシアの頭脳流出──国外脱出する高学歴の若者たち

2022年03月08日(火)11時45分
モスクワ空港でキャンセルだらけの出発時刻表を眺める旅行客

モスクワ空港でキャンセルだらけの出発時刻表を眺める旅行客(2022年2月28日) REUTERS/Stringer


・ウクライナ侵攻をきっかけに、ロシアに見切りをつけて国外移住に踏み切る動きが加速している。

・そこにはプーチン政権の「経済的自殺」への悲観だけでなく、「強制的徴兵」への危機感がある。

・国外移住に向かう多くは高学歴の若者で、プーチン政権はウクライナや世界はもちろん、ロシアの将来にも暗い影を落としている。

ウクライナ侵攻後のロシアは、いわば「既定路線にこだわりすぎるワンマン経営者のもとから優秀な社員が次々いなくなる会社」に近づいている。

ロシアからの「避難民」

ウクライナ侵攻以来、ロシアで活動する海外メディアは次々と規制されているが、これは都合の悪いことを報じられるのを恐れているからとみてよい。そこにはプーチンのお膝元で反戦デモが広がり、すでに数千人が逮捕されていることだけでなく、ロシアから脱出を目指す動きも含まれる。

国外脱出を目指すロシア人が増えていることは、ウクライナ侵攻が始まった2月末からロシアのGoogle検索で「移住」が急増したことからもうかがえる。

実際に移住する多くは若者で、さらにその行き先はいわゆる欧米と限らず、アジアや中東の新興国なども含まれるとみられる。ウクライナ侵攻後、NATO未加盟のセルビアなど一部を除き、欧米諸国の多くはロシア直行便やロシア市民へのビザ発給をストップしているからだ。

3月3日、モスクワで英語を学んでいた男性は英ガーディアンの取材に「自分の将来は奪われた」と話した。彼はスリランカへの航空券を購入したという。

「経済的自殺」「兵隊にとられる」

ロシア脱出の動きが加速する背景には、経済が極度に悪化することへの恐れがある。

ウクライナ侵攻直後、家族などに促されていち早くハンガリーに移っていた若者は、アルジャズィーラの取材に「仲間たちはこの戦争が'経済的自殺'になるといっているが、自分もそう思う」と応じている。

日本を含む西側からの経済制裁がこれまでになく強化されるなか、こうした悲観論がさらに広がることは避けられない。

これに加えて、「戒厳令が施行される」というウワサが国外脱出の動きに拍車をかけている。戒厳令は大統領に非常大権を認めるもので、いわばプーチンに全権を与えるものだ(現段階でプーチン政権は戒厳令を検討していないと強調している)。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story