コラム

「ロシアの侵攻がなければOK」か──ウクライナがテロ輸出国になる脅威

2022年02月17日(木)15時55分

ウクライナで統一派に協力したり、訓練を受けさせたりしている極右団体はザ・ベースだけでなく、彼らにとってウクライナは「白人世界」で数少ない実戦を経験する場になっているのだ。

「ウクライナ帰り」の脅威

こうした外国人戦闘員が、ウクライナにとってだけでなく、その他の国にとっても脅威となることは、すでに多くの専門家が指摘している。

欧米の多くの白人過激派は、ただ差別的であるだけでなく、現在の社会や体制を拒絶し、それをひっくり返すための「内戦」を叫んでいる。ウクライナで実戦経験を積んだ者が本国に帰れば、欧米での白人テロの危険性はこれまでより数段上がるとみられる。

それはイスラーム過激派の脅威が拡散したパターンに近い。

ソ連軍が侵攻した1980年代のアフガニスタンには、「イスラーム世界への侵略」に抵抗するため数多くの義勇兵がイスラーム世界各地から集まり、彼らが後に国際テロ組織アル・カイダを発足させた。アル・カイダとはアラビア語で「基地」を意味し、英語で言えばザ・ベースだ。

この符合が暗示するように、戦闘経験を積んだテロリストが世界に拡散する危険性は、イスラーム過激派だけでなく白人至上主義者にまで広がっている。

「アフガン帰り」や「シリア帰り」ならぬ「ウクライナ帰り」が欧米でデモやイベントに紛れた場合、どんな脅威になるかは言うまでもない。それは米ロが核ミサイルを撃ち合うより、よほど高い確率で発生するリスクとして警戒されるべき問題なのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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