コラム

こけおどしの「民主主義同盟」──反中世論に傾いた米外交の危うさ

2022年01月05日(水)15時15分

その場合、敵失を待ち構える中国に「ダブルスタンダード」という批判の根拠を、これまで以上に与えることにもなる。

張り子のトラの'民主主義同盟'

実質的な効果が疑わしいにもかかわらず、バイデン政権が中国の人権問題にフォーカスするのは、貿易や安全保障での手詰まりから他に中国包囲網の糸口が乏しいというだけでなく、内政の事情もある。

アメリカではトランプ政権時代に分裂が深刻化したが、コロナ感染拡大をきっかけに保守派とリベラル派の双方から嫌われる中国に厳しい態度を示すことは、支持率が下落するバイデン政権にとって抗い難い魅力をもつ。民主党議員でもあるナンシー・ペロシ下院議長が北京五輪の外交的ボイコットを言い始めたのは今年7月だったが、これは来年11月の下院選挙が視野に入ってきたタイミングに符合する。

「民主主義と独裁の対決」の構図は古代ギリシャとペルシャ帝国の間のペルシャ戦争以来、欧米世界でお馴染みのものだ。これに沿ったイメージを訴えることは、有権者に「正義は我にあり」とアピールするのに格好の手段かもしれない。

アメリカがこの構図に訴えるのは初めてではない。

第二次世界大戦でアメリカ政府は「民主主義とファシズムの戦い」を掲げたが、民主的とはいいにくい共産主義国家ソ連が連合国の一角を占めていたように、このアピールには政治的な色彩が濃かった(当時の日本が民主的だったわけでは全くないが)。つまり、アメリカの外交ではしばしば国際的な評価より国内有権者の反応が優先されてきたわけだが、米中対立のエスカレートにもそれは当てはまる。

しかも、第二次世界大戦の頃はすでに日独伊と衝突し、利害が一致していた各国を束ねる大義として「民主主義」が後付けで掲げられたが、今回の場合は利害も一致していない各国を「人権」だけでまとめようとするもろさがある。

それは国内にしか目の向かない有権者には響くかもしれないが、虚構のような'民主主義同盟'しかできなくても驚くには値しない。

中国に行動の変化を求めるのであれば、コロナ対策や経済振興など実利的な協力を増やすことで、中国の足場である多くの途上国や新興国を取り込むべきであって、これが不足したままイデオロギー的な主張だけ掲げても、ただ二股をかけられるだけだ。それでは中国の人権問題だけでなく、世界の人権問題も改善しない。

実利的な協力で勢力を広げてきた中国の牙城を、イデオロギー過多の張り子のトラで突破するのは難しいといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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