こけおどしの「民主主義同盟」──反中世論に傾いた米外交の危うさ
これらのうち、例えば西アフリカのナイジェリアでは警察の対凶悪犯特殊部隊(SARS)が「テロ対策」や「暴動対策」の名の下に数多くの民間人を超法規的に殺傷しており、2017年から'#EndSARS' を掲げる抗議デモが頻繁に発生している。治安機関による暴力を受けて、バイデン政権自身、ナイジェリアから要請のあった武装ヘリAH-1コブラ12機の提供を停止した経緯がある。
民主主義サミットにはそればかりか、フリーダムハウスに「自由でない」と評価されるイラク、アンゴラ、コンゴ民主共和国さえも堂々と参加していた。民主主義サミットといいながらも、名が体を表すとは限らない。
パフォーマンス以上のものではない
さらに目を引くのは、民主主義サミットに参加した国に、伝統的に欧米と友好的な外交関係をもつ国が多いことは確かだが、それらが「反中」とは限らないことだ。
例えば、ハンガリーでは極右的なオルバン首相が外国人ヘイトを煽り、報道規制を強めてきた一方、近年では中国との緊密さが目立つ。
フィリピンのドゥテルテ大統領、ケニアのケニヤッタ大統領などもまた、時には中国と外交的な衝突を演じながらも、投資・貿易、ワクチンなどで中国への依存度は大きい。それだけでなく、これらの首脳はしばしば、国内の人権問題に対するアメリカなど欧米諸国の「内政干渉」を批判してきた。
つまり、民主主義サミットに参加したからといって「親米=反中」とは限らず、それはむしろ米中に二股をかけた結果といえる。
民主主義サミットに参加した国ですらそうなのだから、「中国ぬきのサプライチェーン」というアメリカの構想につき合う意思をもつ国は世界にほとんどないとみた方がよい。アメリカや日本との関係も深いシンガポールのリー・シェンロン首相(しかし民主主義サミットには出席していない)はアメリカメディアに「米中どちらかを選ぶのはとても難しい(つまりほぼ不可能)」と率直に述べている。
だとすると、人権外交には外交的パフォーマンス以上の実質的な効果を期待できない。
そればかりか、民主主義サミットに参加した人権状況に問題のある国で、これまで以上に人権侵害が加速する恐れさえある。頭数を揃えることを重視した結果、バイデン政権が問題ある国の首脳も民主主義サミットに喜んで迎えたことで、これらの国の人権状況に暗黙の了解を与えることになりかねないからだ。
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