コラム

カザフスタン大暴動を知るための5つの基礎知識──きっかけと目的、周辺国への影響も

2022年01月11日(火)17時00分

やはり旧ソ連を構成していたウクライナやベラルーシでは近年、独裁的な政府への抗議活動が拡大してきた。このうちウクライナでは2014年、内乱の激化がロシアの軍事介入を招き、それが「第二次世界大戦後のヨーロッパ最大の危機」とも呼ばれるクリミア危機をもたらしただけでなく、昨年末からロシアと欧米の軍事的緊張も再び高まっている。

これに鑑みれば、「欧米が民主化を画策してカザフに干渉している」と言いたいのかもしれないが、その一方ではイスラーム過激派を念頭に置いた発言とも受け止められる。

人口の60%以上を占めるカザフ人の多くはムスリムだが、ソ連の一部だったこともあってこの地のイスラームは世俗化が進んでいる。しかし、それでも2016年6月、シリアから流入したとみられる「イスラーム国(IS)」メンバーが西部アクトベで軍の施設などを攻撃して25人以上の死者を出すなど、過激派の活動も皆無ではない。

また、昨年8月にアフガニスタンの首都カブールをタリバンが制圧したことは、この地域一帯のイスラーム過激派を触発したとみられており、カザフ政府がこれに警戒感を示していたことは確かだ。

トカエフのいう「外国勢力」が何を指すかはともかく、周辺の中央アジア諸国は、権力を独占する長期政権がある点で、多かれ少なかれカザフスタンと同じだ。同様の混乱がドミノ倒しのように広がることへの懸念は、ロシアを「縄張り」の安定化に向かわせる大きな原動力になっているわけだが、この地でロシア軍の活動が活発化すれば、それこそ「イスラーム世界に侵入した」という大義名分を与え、かえってイスラーム過激派をカザフスタンに呼びよせるリスクも大きい。

天然ガスや食糧の輸出を通じて世界とつながるカザフスタンの混乱は、オミクロン株に揺れる世界をさらに揺さぶる大きなリスク要因となり得るのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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