コラム

海外から中国に移送される台湾人──犯罪人引渡し条約の政治利用とは

2021年12月06日(月)12時55分

もっとも、途上国では話が別だろう。ほとんどの途上国では、外国人犯罪者の人権保護より国内の治安対策の方が優先されやすい。

また、もともと中国と関係の深いカンボジアのような国だけでなく、フィリピンやケニアのように中国と外交的な摩擦を抱える国にとっても、投資や貿易だけでなくワクチン外交で攻勢を強める中国との関係を無視するより、中国の要請に応じて多少なりとも恩を売る方が外交的に得策であることも確かだ。

少なくとも先進国のコロナ協力がほとんどかけ声倒れになっている限り、途上国がこの分野で先進国に協力的になることは期待しにくい。台湾人引渡し問題は「人権を守れ」というかけ声だけで人権保護が実現できないことを象徴するともいえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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