コラム

アフガニスタン全土の制圧に向かうタリバン──女子教育は再び規制されるか

2021年08月15日(日)18時25分

そして、もう一方の「国内の圧力」とは、一般のアフガニスタン人の間ですでに女子教育が広く受け入れられていることだ。アメリカに拠点をもつアジア財団の調査によると、アフガン人の87%は「女性が男性と同じ教育機会を持てるべき」と考えている。これはタリバンにとっても大きな圧力になっているとみてよい。

だとすれば、タリバンが権力を握った場合、現在の教育制度が一旦スクラップされたとしても、タリバンが許容する範囲で女子教育が認められる公算は高い。

「普通のイスラーム国家」になるか

欧米や日本の一部のメディアでは「イスラームが女性の権利を制限する」と断定的に語られやすい。実際、イスラームは欧米的なジェンダー平等と無縁かもしれない。

しかし、どんな体制であれ、「統治される側」の基本的な要望を全く無視していては、その支配は長続きしない。実際、厳格なイスラーム支配で知られるサウジアラビアであれイランであれ、今や女子教育そのものを規制する国はほとんどない。

注意すべきは、イスラームには画一的な教義はなく、それぞれの時代や土地柄に応じて解釈が変わる柔軟性もあることだ。そのため、現代のほとんどのイスラーム圏では、男女共学は稀でも、聖典コーランにある「知識を求めよ」という一節を根拠に、女子教育そのものは認められることが多いのである。

同じようにイスラームの大義を掲げていても、タリバンは「イスラーム国(IS)」やアルカイダとは違う。ISやアルカイダは熱狂的支持者から献金を集め、国をまたいで支持者をリクルートするため、カメラの前で人質を処刑するといった政治的パフォーマンスを平気で行なう。

これらの国際テロ組織と異なり、タリバンはあくまでアフガニスタン人の組織で、アフガニスタンの統治のみに関心をもつ。外国人だから、異教徒だからといった理由で首を刎ねることは、ほとんどのムスリムにとって受け入れられない話であり、タリバンはそうした「当たり前の人々」の支持を集めなければならないのである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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