コラム

アフガニスタン全土の制圧に向かうタリバン──女子教育は再び規制されるか

2021年08月15日(日)18時25分

2001年以降、アメリカの後ろ盾のもと、アフガニスタン政府は女子教育を含む学校教育を再開した。しかし、米軍撤退と並行してタリバンが勢力を盛り返すにつれ、端についたばかりの女子教育がアフガン全土で再び抑圧されるのではないかという懸念が高まっているのである。

例えば、3年前にタリバンが支配を確立した北西部では、12歳以上の女子学生の通学が規制され、男性教員は罷免された。また、この地域では女子教育に携わる者への脅迫も増えたと報告されている。

アフガニスタン初の女性閣僚でもあるハミディ教育相は、「女性にとっての暗黒時代を再来させてはならない」と強調している。このように、タリバン政権によってあらゆる権利を否定された経験を持つ人々の間で、「彼らは変わっていない」と不安が高まるのは不思議ではない。

タリバンの方針転換とは

ただし、タリバンが再びアフガニスタンを支配した場合、一方通行で「女性にとっての暗黒時代」に逆戻りするとは限らない。

その最大の理由は、たとえその思想性に大きな変化がなかったとしても、タリバンが政治的な理由から、女子教育を緩和する方針をみせているからだ。

例えば、タリバンの支配地域である東部ホウストでは、数年前から学校に男の子だけでなく女の子も通っている。この学校の教師はアメリカメディアの取材に対して、「自分の生徒のうちの幾人かはタリバン兵の息子や娘だが、なんの問題もない」と応じている。

さらにタリバンは昨年12月、国連児童基金(UNICEF)との間で、その支配地域の4000カ所で、読み書きを教える教室を運営することにも合意した。これにより、男女問わず14万人以上の子どもが学校に通えるとみられる。

タリバンの方針転換について、ワトソン研究所のブレスロウスキー博士は「国際的な正当性」と「国内の圧力」を指摘する。

このうち、「国際的な正当性」とは、タリバンが将来的にアフガニスタンを代表する政権を握るという認知を獲得したことを意味する。つまり、ただの力任せで、あるいは1990年代のように人権を制約して、アフガンを支配するわけではない、という国際的アピールだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:ロシア防衛企業の苦悩、経営者が赤の広場で焼身

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏が

ビジネス

エヌビディア、新興AI半導体開発グロックを200億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story