コラム

「タリバンはぬるい」カブール空港爆破テロ実行犯、IS-Kの野望と危険度

2021年08月31日(火)15時35分

そのテロ活動は今年に入ってから増加しており、5月に発表された国連報告によると、IS-Kは2021年の1月〜4月だけで77件の攻撃を行なっており、これは去年の3倍のペースにあたる。

タリバンの「不倶戴天の敵」

IS-Kの基本的な目標はホラサンにイスラーム国家を建設することにある。その意味ではアフガンにイスラーム国家の建設を目指すタリバンに近いようにみられるが、実は全く異なる。それどころか、ニューヨークに拠点をもつコンサルタント、コリン・クラークはIS-Kを「タリバンの『不倶戴天の敵』」と表現する。

タリバンとIS-Kは何が違うのか。

まず、宗派から。タリバンのメンバーの多くは、イスラームのスンニ派のなかでも、インドやパキスタンなど南アジアに多いデオバンド派に属する。これに対して、IS-Kはイスラームの「本場」であるアラビア半島に多いサラフィー主義の影響が強い。

さらに、「アフガニスタン」の捉え方にも違いがある。タリバンはあくまでアフガン人を中心とする組織で、アフガンにイスラーム国家を建設することを目指す。

これに対して、IS-Kにとってアフガンとは、近代以降の歴史のなかで生まれた国境線に基づくもので、伝統的なイスラーム世界において意味はないと捉える。そのため、ホラサンという古い地理上の概念を持ち出しているのだ。これはタリバンにとって、自分たちの国を乗っ取られることに等しい。

さらに、タリバンはアフガン以外での活動にほとんど関心を持たないが、IS-Kは異教徒に対する「グローバル・ジハード」を掲げる。

こうした違いから、タリバンとIS-Kは「イスラーム過激派」という括りでは同じでも、全く相容れない。いわば「近親憎悪」の結果、IS-Kは2015年にアフガンに登場して以来、米軍だけでなくタリバンともしばしば衝突を繰り返してきた。

そのため、多くのイスラーム過激派はタリバンのカブール制圧を祝福しているが、IS-Kはその限りではない。

なぜIS-Kは空港を狙ったか

今回、アフガン脱出を目指す人でごった返すカブール国際空港をIS-Kが狙ったのは、タリバンとの派閥抗争の結果といえる。

IS-Kの観点からいうと、タリバンは「ぬるい」。徹底してアメリカと戦うことを叫ぶIS-Kからすれば、タリバンがアメリカと和平合意を結んだこと自体、「敵と妥協した」となる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story