タリバン大攻勢を生んだ3つの理由──9.11以来の大転換を迎えるアフガニスタン
これはタリバンにとって事実上の勝利だ。そればかりか、「テロリストとは交渉しない」と言い張り続けてきたアメリカがタリバンと対等の交渉に臨んだことは、「タリバンはテロリストではない」とアメリカが認めたことにもなる。
「アメリカに勝った」高揚感に包まれるタリバンが、その目に「アメリカの傀儡」と映るアフガニスタン政府とまともに交渉する気がなくても不思議ではない。
各地を次々と制圧するタリバンに対して、米軍は一部で空爆などを行なっている。しかし、バイデン大統領は同時多発テロ事件の記念日に当たる9月11日を目前に控えた8月一杯で撤退を完了させる方針を変えていない。
撤退を優先させる米軍の姿勢は、タリバン大攻勢の引き金になったといえる。
タリバンと戦う気のない政府と軍
これに拍車をかけたのが、第2の理由である「アフガニスタン政府・軍の無気力・無力」だ。
アメリカの撤退はアフガニスタン政府・軍からすれば「見捨てられた」に等しい。だからこそ、アフガン政府はタリバンとアメリカの交渉そのものに反対し続けただけでなく、国家再建についてタリバンと交渉することにも消極的だった。
しかし、だからといって20年間アメリカの庇護下に置かれてきたアフガニスタン政府には、タリバンと本気で対峙する気力も能力もない。
実際、タリバンは8月12日、アフガニスタン第二の都市カンダハルと第三の都市ヘラートを相次いで制圧したが、その際に政府関係者がいち早く退避し、都市を事実上タリバンに明け渡した。カンダハルの住民はアル・ジャズィーラの取材に「彼ら(政府)は私たちを売った」と嘆いている。
政府だけではない。アメリカがこれまで数十億ドルの武器・装備を提供してきたアフガニスタン軍の兵士のほとんどは、汚職にまみれた体制の末端公務員に過ぎないため、モラルも士気も低く、タリバンとまともに戦おうともしない。
例えば、14日に陥落した第4の都市マザリシャリフでは、アフガニスタン軍がまっさきに降伏して市外に撤退し、これによって正規軍と戦列を共にしていた反タリバンの民兵まで総崩れになったという。
さらに、各地であっという間に敗走するアフガニスタン軍は多くの武器・装備を放棄しており、タリバンはアメリカ製兵器で武装をさらに拡充している。
「核兵器を使えばガザ戦争はすぐ終わる」は正しいか? 大戦末期の日本とガザが違う4つの理由 2024.08.15
パリ五輪と米大統領選の影で「ウ中接近」が進む理由 2024.07.30
フランス発ユーロ危機はあるか──右翼と左翼の間で沈没する「エリート大統領」マクロン 2024.07.10