コラム

タリバンと手を組む中国──戦火のアフガニスタンを目指す3つの目的

2021年08月02日(月)19時25分

大国の侵入を常に弾き返してきたアフガニスタンに、中国が投資やインフラ事業を持ち込み、多少なりとも経済成長が実現すれば、「どの大国もできなかったアフガニスタンの発展を中国が成し遂げた」という宣伝材料となる。いわば「中国こそ史上最高の大国」というイメージ化だ。

「火中の栗」は甘くない

こうして見た時、戦火のアフガニスタンにあえて接近することで、中国は火中の栗を拾おうとしているといえる。それがうまくいけば、確かに中国にとって大きな成果となるかもしれない。

ただし、そこには当然リスクもある。

事実上の内戦に陥るアフガニスタンで、一方の当事者であるタリバンに、中国は露骨に接近している。それはタリバンの勝利を見込んだ投資にはなるだろうが、中国がこれまで盛んに強調してきた「内政不干渉」とは相いれない(この主張によって中国はミャンマー軍政を擁護してきた)。

それはこれまで以上に「利益のためには言行不一致も気にしない国」というイメージを増幅させるきっかけにもなるだろう。

これに加えて、アフガニスタン国内で反中感情が一気に高まる可能性も拭えない。

中国の経済進出は、その規模の大きさとスピードの速さから、しばしば相手国で拒絶反応を生んできた。例えば、アフガニスタンの隣国パキスタンでは、圧倒的な存在感をもつ中国企業に対して、イスラーム勢力「バロチスタン解放軍」がテロ攻撃を増やしている。

アフガニスタンの場合、他の国にも増して、中国の経済的影響はスピーディーに、しかも大きくなることは容易に想像される。米国をはじめほとんどの国は、治安への懸念からアフガン進出を躊躇しているためである。

強力なライバルがいないなか、中国企業がリスクをいとわず本格的に進出すれば、アフガニスタン経済のかなりの部分を握ることは難しくないだろう。しかし、それは「中国の経済的侵略」という反感を増幅させる導火線にもなり得る。

アフガニスタンで反中感情が高まれば、中国はこれまでにないリスクを背負うことになる。その場合、米国をもはね返したタリバンだけでなく、アフガニスタン内部に潜伏するアルカイダ、ISの残党を相手にしなければならない公算が高いからだ。

中国が拾おうとしている火中の栗は、決して甘くないといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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