コラム

欧米のアジア系ヘイトを外交に利用する中国──「人権」をめぐる宣伝戦

2021年04月07日(水)17時10分

トランプだけでなくアメリカの歴代大統領のほとんどが白人至上主義者を見て見ぬふりしたことは周知の事柄だし、多くの国が反対しているなか一方的に始めたイラク侵攻(2003)で国防省の雇った傭兵がイラク人を無差別に殺傷した事案、パキスタンなどでの米軍ドローンによる民間人誤爆などは、アメリカ自身が認めている。また、よくも悪くも個人の権利が重視されるからこそ、中国のように厳しいコロナ規制ができないというのも確かだろう。

そのため、むしろ「盗人にも三分の理」といった方がいいかもしれない。

ただし、駐車違反の切符を切られて「もっと悪いことやってる奴いるんだから、そっち捕まえろよ」と警官に逆ギレするドライバーと同じで、他人の罪を指摘することが自分の潔白を証明することにはならない。外国人がウイグルに立ち入ることさえ規制しながら、「弾圧などない」と強弁されても説得力はない。

それでも中国メディアが盛んに「人権」を論じようとするのは、国際世論の形成そのものが戦場になっているからだ。

アメリカもウイグル弾圧を黙認した

人権を語る中国メディアの常套句は「欧米のダブルスタンダード」だ。ダブルスタンダードとは要するに「エコひいき」「二枚舌」だ。

例えば、ウイグルについて取り上げると、中国は3月初旬、ジュネーブでスリランカ、カメルーン、セルビアなどの代表団との会合でウイグルにおけるテロ攻撃の現場を紹介し、その取り締まりの様子などを記録した5分間のドキュメンタリー映像(あるいは宣伝映画)が流された。グローバル・タイムズはこの会合に出席した各国の学者の発言を引用して、「中国政府には市民を守るために必要な措置を講じる権利がある」、「アメリカとその同盟国だけが人権を語る資格があるのか」と論じている。

つまり、アメリカやその同盟国は人権侵害と紙一重のテロ対策を国外でも行なっているのに、中国がそれをすればただの人権侵害というのはおかしい、という主張だ。

実際、ウイグル人のほとんどはテロと無関係だが、イスラーム過激派の影響を受けた者がいることも確かで、2014年に過激派組織「イスラーム国」(IS)が「建国」を宣言した際には、少なくとも100人のウイグル人がシリアに渡った。

「テロを封じる」がウイグル弾圧の根拠になっているわけだが、中国のこの論理はかつてアメリカが黙認したものでもある。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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