コラム

右翼はなぜ頑なにマスクを拒絶するのか、その思想性

2020年12月18日(金)13時15分

プラウド・ボーイズなどアメリカの白人極右は、時代の変化に応じて黒人や性的少数者の権利を認めた現在の法体系を拒絶し、アメリカ合衆国が建国された当時のままの憲法解釈を要求する。日本国憲法がアメリカによる「押し付け憲法」であることを強調する立場も、現在の体制を否定する点で同じだ。

このように、もともと現在の体制への不信感が強い右翼にとって、マスク着用の徹底やロックダウンなど、私的な領域にまで踏み込まざるを得ないコロナ対策は、「政府の横暴」を叫ぶ絶好の口実になる。「不当で非民主的な政府が、いよいよその本性を表した」というわけだ。

ドイツでは第三波襲来を警戒し、コロナ対策を強化するメルケル首相に対して、右翼活動家が「全体主義者」、「独裁者」と罵声を浴びせている。

右翼と左翼の違いとは

ただし、多くの右翼がコロナ対策に反対するのは、体制への不信感だけが理由とはいえない。体制批判だけなら左翼も同じだが、左翼は右翼ほどコロナ対策への抗議が目立たない。

一般的に右翼と左翼は、本人たちが否定するほど全く違うわけでもない。政治学者の故ハーバード・マクロスキー教授らによると、右翼と左翼は独善的な視点に固執して陰謀論に傾きやすいことや、現在の体制への不信感が強い点で共通する。

だとすると、コロナ対策批判に関する温度差には、右翼と左翼の違いが浮き彫りになっているように思われる。

社会心理学者マイラン・オバイディ教授によると、左翼は人間関係を対等であるべきと考える傾向が強く、人種や性別などによる差別に拒絶反応が強いのに対して、多くの右翼はむしろ人間関係を垂直的に捉える。そのため、「自分より劣る」とみなす属性や立場に威圧的、排他的な態度をとりやすい。

つまり、右翼も左翼も自分が下に置かれることを拒む点では同じだが、右翼の場合、タテの関係に意識が向かいやすいことの裏返しで、誰かにマウントを取られることへの恐怖心や対人不信が強い。

そのため、根拠のあるなしにかかわらず、右翼には自分への万能感が強い。精神分析学者ハインツ・コフートによるヒトラーに関する指摘と、トランプに関する心理学者たちの研究は、どちらも自己愛の強さを浮き彫りにしており、そこには対人不信やコンプレックスとともに万能感も共通する。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story