コラム

「中国に対抗できるのはトランプだけ」の勘違い――バイデンの戦略とは

2020年11月09日(月)10時59分

当選確実の報を喜ぶバイデンとその家族(2020年11月7日) Jonathan Ernst-REUTERS


・トランプ外交には派手さと剛腕ぶりがあったが、そうであるがゆえに穴も大きかった

・とりわけ、アメリカが突出して中国と対決したことは、結果的に中国の行動範囲を広げることになった

・バイデンはこうした穴を埋める形で、国際的な中国包囲網を形成していくとみられる

トランプ退場で世界がリセットされるわけではない。トランプ政権のもとで激化した米中対立は、形を変えてバイデンに引き継がれる。

トランプ外交の穴とは

アメリカ大統領選挙でバイデン当選が確実になった。本稿執筆段階ではトランプ氏は敗北を認めておらず、法定闘争も始まっている。しかし、トランプ陣営には「選挙の不正」を立証する責任があるが、必要な証拠を揃えられるかは疑わしい。

トランプ退場は世界に大きなインパクトを与えるが、なかでも重大なのが米中対立だ。トランプ支持者からは「中国に対抗できるのはトランプだけ」という声が聞こえてきそうだが、「敵か味方か」を鮮明にするトランプ外交は、中国にとっても大きな衝撃だった反面、そこには穴も目立った。

これに対して、バイデンはトランプとは違う形でだが、強い圧力を加えるとみられる。バイデンの対中政策に関して、筆者はすでに9月に論考を掲載していたが、以下ではこれに補足して、特に国際的な中国包囲網の形成についてみていこう。

孤立したのは誰か

バイデンの大方針は中国への国際的な包囲網を強めることにある。これは一国主義的な行動の目立ったトランプ政権とは対照的だ。

トランプ外交の最大の特徴は、第二次世界大戦後のアメリカの基本方針「超大国であること」を放棄したことにある。自由貿易をはじめアメリカ自身が生み出したルールや秩序をトランプが拒絶したことは、「超大国としての立場も降りる」と宣言したに等しい

しかし、相手を選ばず、一方的な要求を繰り返したことは、結果的に(中国ではなく)アメリカを孤立しがちにした。

これと逆に中国は、むしろ活動範囲を広げてきた。トランプがコロナ対策への不満から世界保健機関(WHO)脱退を宣言し、アメリカの利益が反映されていないと世界貿易機関(WTO)からの脱退をも示唆したことは、これらにおける中国の影響力を増す効果しかなかったといえる。

これに対して、バイデンは「アメリカが世界をリードしなければならない」と強調している。言い換えると、アメリカが超大国の座にとどまることを目指しているのであって、アメリカ大統領としては、いわばオーソドックスなタイプだろう。

そのためのバイデンの方針は、一言でいえば国際主義だ。バイデンはWHOや地球温暖化に関するパリ協定への復帰を訴えているが、これは国際機関への関与を強め、アメリカ主導のルールを厳格化することで、中国包囲網を強めるものといえる。

陣取り合戦の激化

中国包囲網を強める場合、カギになるのは途上国だ。多くの人は外交というと大国間のものを意識しやすいが、途上国を無視する者は途上国に泣く。途上国は国連加盟国の半分以上を占めるからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story