「美白」クリームと人種差別──商品名の変更を迫られるコスメ産業
カリブ出身の黒人で、後にアルジェリア独立戦争に身を投じた精神科医で哲学者のフランツ・ファノン(1925-1961)は、各地での臨床調査を踏まえて、当時の植民地支配が有色人種とりわけ黒人を単に政治・経済的だけでなく、精神的にも支配するものであることを暴いた。
1952年に著された『黒い皮膚・白い仮面』には、黒人でありながら白人のような思考パターンをすり込まれた結果、自分の黒い肌への拒絶反応に苦しむケースが数多く記されている。
フランスにきている黒人の女子学生で、自分は黒人の男とは結婚できないと無邪気に...告白する多くの者を、私は知っている。...それは黒人の価値を全く認めないからではなく、白人である方がずっといいからなのだ、と。 (出典:『黒い皮膚・白い仮面』p70 翻訳版の日本語を一部変更)
念のために確認すれば、これらの女子学生も黒人だ。それにもかかわらず白人の眼で自分をみて、黒人であることを過小評価し、白人世界の一員でありたいと願う喪失感に、精神科医であるファノンは恐怖症の患者に近い強迫的な性格を見出している。
「黒い皮膚・白い仮面」は生きている
ファノンの告発は、日常的、無意識的な支配のあり方を明らかにする、ポスト・コロニアリズム研究と呼ばれる学問の潮流を生む、一つのきっかけになった。
しかし、ファノンの告発から約70年を経た現在でも、欧米や白人を暗黙のうちに高級、スタイリッシュといったイメージで描く風潮は根強い。それは資金の豊富なメディアによって、むしろ増幅している。
インドの美白クリームの場合、インド人の有名女優などを起用した大々的なコマーシャルは、「白い肌こそ素晴らしい」というすり込みになったと批判される。
日本でも、化粧品メーカーやファッションブランド、スポーツジムなどの広告やポスターで、金髪碧眼のモデルが起用される割合は高い。そのこと自体、日本もファノンが暴いた自己倒錯と無縁でないことを象徴する。
呪縛から人間を解放する
かといって、「黒い方が美しい」や「日本人の方が素晴らしい」と言えば、「白人こそ最高」という主張が形を変えただけに過ぎない。
ファノンは「白人こそ最高」という呪縛から黒人を解き放つことを説いたが、その一方で「黒こそ最高」という意見には同調しなかった。
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