コラム

トランプ「世紀の中東和平案」──パレスチナが拒絶する3つの理由

2020年01月30日(木)19時00分

TV画面のトランプ大統領の顔に靴を叩きつけるパレスチナ男性(1月28日) Mussa Qawasma-REUTERS


・トランプ大統領はイスラエルとパレスチナの間の領有権問題「パレスチナ問題」で新たな和平案を提示した

・しかし、この和平案はイスラエルの実効支配を事実上認め、さらに国際法に反するイスラエル人入植者の権利も認めている

・そのうえ、ほとんどのアラブ諸国がこの和平案に反対する姿勢をみせないことで、パレスチナの不信感と怒りは大きくなっている

トランプ大統領はパレスチナ問題に関する和平案を明らかにしたが、これは「反・和平案」とさえ呼べる。

「世紀のディール」の虚実

中東パレスチナの領有をめぐるイスラエルとパレスチナ人の対立は70年以上に及ぶ。

これに関して、トランプ大統領は28日、イスラエルのネタニヤフ首相とともにパレスチナ和平案を明らかにした。トランプ氏はこの提案を「WINーWINの解決を可能にする」と強調し、「世紀のディール」と胸を張った

しかし、一方の当事者であるパレスチナ自治政府のアッバス議長は、もともとアメリカ、イスラエルとともに和平協議に出席していたものの、トランプ案を受け入れられないと協議をボイコットしていた。

自らが欠席したままの協議の結果として発表されたトランプ案をアッバス議長は「陰謀」と呼び、改めて拒否。これに呼応して、パレスチナ各地で抗議デモが発生する事態となった。

ワシントンD.C.に拠点をもつアラブ・アメリカン研究所のジェームズ・ゾグビー所長は「この提案がパレスチナ人への侮辱ということをトランプ大統領が分かっていないことが驚きだ」と皮肉っている。

国連決議よりイスラエルの実効支配を優先させる

それでは、トランプ案の何が問題なのか。以下では、パレスチナ人の不信感と怒りを呼んだ3つの理由をみていこう。

第一に、イスラエルの実効支配を事実上認める点だ

トランプ案はエルサレムを「イスラエルの不可分の首都」と認めている。ユダヤ教、キリスト教、イスラームの三宗教のいずれにとっても聖地であるエルサレムは、パレスチナ問題で常に焦点になってきた。

1967年の第三次中東戦争でイスラエルはエルサレム全体を占領した。その後、イスラエルはエルサレムを首都と定めた。

しかし、国連決議では西エルサレムがイスラエルに、東エルサレムがパレスチナに、それぞれ帰属すると定められている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story