二つのナショナリズムがぶつかるスコットランド──分離独立問題の再燃
現在のスコットランドをみると、少なくとも独立派が勝機を見出しても不思議ではない政治状況にある。
まず、EU離脱を推進するジョンソン首相が解散に踏み切り、保守党が大勝した12月15日の総選挙で、スコットランドの59議席のうち48議席をスコットランド国民党が占めた。
次に、スコットランド国民党は、スコットランド人としてのナショナリズムを強調し、分離独立を主導してきた政党だ。自治政府のスタージョン第一首相は、その党首でもある。スコットランド国民党の躍進は、「ロンドンがスコットランドの反対を無視してEU離脱を強行しようとしている」という反感から、分離独立の気運が高まるさまを示す。
つまり、ジョンソン首相がイギリス・ナショナリズムに傾き、EU離脱に道筋をつけたことは結果的に、スコットランド・ナショナリズムも喚起した。スコットランド問題は、いわば二つのナショナリズムの衝突ともいえる。
左右からの挟み撃ち
これに加えて、スコットランド国民党には有力な援軍も期待できる。スコットランドにもともと多い労働党支持者だ。
スコットランドは元来、所得水準でイングランドより低い。そのため、「小さな政府」志向の強い保守党ではなく、「弱者の権利」を重視する労働党が伝統的に強く、スコットランド国民党が台頭する以前、スコットランドは労働党の牙城だった。
ただし、2014年のスコットランド住民投票で、独立を支持した労働党支持者は37%にとどまった。そこには社会保障などのサービス低下への懸念があったとみられる。
ところが、今回は2014年と事情が異なる。EU離脱を推進するジョンソン首相や保守党と対照的に、労働党は一貫してこれに反対してきた。
スコットランド国民党と労働党はそれぞれ、いわゆる右派と左派に位置づけられる。そのため、党としての関係は必ずしもよくない。しかし、労働党の支持者にとって、EU残留を可能にする手段として、スコットランド独立の魅力は大きくなっている。
つまり、党本部はともかく、スコットランドの労働党支持者には、分離独立支持への転向が見込まれるのだ。この構図は、保守党が過半数を占めるロンドンの議会を、スコットランドがいわば左右から挟み撃ちするものといえる。
今後の焦点「第30条」は適用されるか
それでは、ジョンソン首相は、これにどのように対応するのか。
今後の焦点は、スタージョン第一首相が求める「第30条」の適用にある。
第30条とは、スコットランドの自治を定めたスコットランド法の第30条を指す。ここでは、本来ロンドンの政府・議会がもつ権限を、必要に応じてスコットランド議会に委ねることが定められている。
「核兵器を使えばガザ戦争はすぐ終わる」は正しいか? 大戦末期の日本とガザが違う4つの理由 2024.08.15
パリ五輪と米大統領選の影で「ウ中接近」が進む理由 2024.07.30
フランス発ユーロ危機はあるか──右翼と左翼の間で沈没する「エリート大統領」マクロン 2024.07.10