コラム

二つのナショナリズムがぶつかるスコットランド──分離独立問題の再燃

2019年12月23日(月)17時49分

イギリスと同じく岐路に立つスコットランド David Moir-REUTERS


・スコットランド自治政府はイギリス政府に対して、分離独立を問う2度目の住民投票の実施を正式に要求した

・イギリス・ナショナリズムに傾いてEU離脱を進めるジョンソン首相は、残留派の多いスコットランドで、「ロンドンに振り回されないこと」を目指すナショナリズムも再燃させた

・やはりEU離脱に反対する労働党の支持者もこれに呼応すると見込まれるため、イギリス政府は左右からの挟み撃ちにあうとみられる

イギリスのEU離脱が秒読みに入るなか、これとともに「スコットランド分離独立によるイギリス分裂」が現実味を帯びてきた。

2度目の住民投票に向かうスコットランド

12月19日、スコットランド自治政府のスタージョン第一首相はロンドンのジョンソン首相に書簡を送り、スコットランド分離独立を問う住民投票の実施を認めるよう求めた

連合王国の一角を占めるスコットランドでは2014年、イギリスからの分離独立を問う住民投票が行われたが、55%の反対多数で否決された。分離独立の動きは、これで一区切りついたかにみえた。


しかし、「イギリスがEUから離脱する場合これが再燃する」という見込みは、以前から取りざたされていた。スタージョン第一首相が2度目の住民投票(indyref2と呼ばれる)をイギリス政府に公式に求めたことで、この予測は現実になった。

分離独立の起爆剤「EU離脱」

なぜイギリスのEU離脱がスコットランドの分離独立を促すか。その大きな背景には、スコットランドでEU残留派が多いことがある。

EU離脱の賛否を問う2016年国民投票で残留派は、イギリス全体で48.1%にとどまり敗れた。しかし、スコットランドだけに限ると、残留支持が62%にのぼった。

もともとスコットランドはイングランドによって支配され、連合王国に組み込まれた歴史をもつ。そのため、ロンドンへの反感は強く、それがヨーロッパ大陸との結びつきを重視する気風を生んできた。

つまり、イギリス政府がEU離脱に邁進したことは結果的に、EU残留を求めるスコットランドで、ロンドンへの反感を強め、イギリスからの分離独立を求める声を再び大きくさせたのである。

絡み合う二つのナショナリズム

ただし、2014年スコットランド住民投票では、分離独立が否決された。イギリスのEU離脱が追い風になるとしても、2度目の住民投票が行われた場合、独立派に勝算はあるのか。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因

ワールド

ロシア新型ミサイル攻撃、「重大な激化」 世界は対応

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story