なぜトランプは平気で「ウソ」をつけるか──ヒトラーとの対比から
このうち、2017年10月に出版された、イエール大学バンディ・リー准教授のThe Dangerous Case of Donald Trump(ドナルド・トランプの危険なケース)は、27人の精神分析の専門家がトランプ氏の情緒不安定などの危険性を警告する内容になっている。
また、2018年9月にジョージ・ワシントン大学の精神分析学者ジャスティン・フランク教授が出版したTrump on the Couch(診察台の上のトランプ)は、その権威主義的な性格を幼少期から掘り起こした労作だ。
こうした研究の多くはトランプ氏に自己愛性人格障害の傾向を見出していて、イーロン大学のバイラル・ガンダウア准教授のように「トランプ氏は教科書に出てくるような自己愛性人格障害の持ち主だ。精神科医がそのように診断するのに苦労はない」と断言する専門家もある。
強すぎる自己愛がもたらす闇
自己愛性人格障害とは何か。詳しくは心理学者や精子分析学者に委ねるとして、ごく簡単にいえば「自分はかけがえのない存在だ」という思いが強すぎる状態で、いわゆるナルシズムである。
自分を大事に思うことは必要だとしても、強すぎる自己愛は周囲との摩擦を招きやすい。例えば、自己愛性人格障害の持ち主は批判されることを極度に嫌う。自己を大事にするあまり、正当な批判であっても聞く耳を持てないのだという。これは心理学などでは防衛機制と呼ばれる。
先述のガンダウア准教授は、トランプ氏には防衛機制のなかでも反動形成の特徴が鮮明だと指摘する。反動形成とは抑圧された欲求と反対の態度が強調して現れることを指す。トランプ氏が記者会見でCNNの記者をやり玉にあげたり、自分の意に沿わない情報を「フェイクニュース」と切って捨てたりするのは、もはやおなじみの光景だが、ガンダウア准教授によれば、あれらは基本的に不安や失意の反動だというのだ。
だとすれば、成果が乏しいほどトランプ氏が強気の「ウソ」を連発しやすくなるのは不思議ではない。
一般的に自己愛の強い者にとってウソは自らの弱さ、失敗、見当違いなどを覆い隠すうえで欠かせない。その際、自分を大きく見せるために話を誇張しやすくなるだけでなく、上手くいかない原因や責任を他者に転嫁しやすくなる。これらはいずれも自己愛性人格障害によくある子どもっぽさ、幼児性ともいえるが、こうした特徴もトランプ氏を思い起こさせる。
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