コラム

リビア内戦めぐりフランスとイタリアが対立──NATO加盟国同士が戦う局面も?

2019年04月19日(金)13時00分

例えば、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアなどの担当者は、リビア国民軍を率いるハフタル将軍としばしば会談している。これら各国はリビア統一政府の一角を占めるムスリム同胞団をテロ組織として国内で取り締まっており、そこにはイスラーム世界のなかの対立がある。

また、中東進出を強めるロシアも、将来的にリビアに軍事基地を建設する見返りに、リビア国民軍に武器を提供しているといわれる。

これら各国は表面上、国連の承認を得た統一政府を支持しながらもリビア国民軍に肩入れし、新政権樹立を通じてリビアを自分たちの勢力圏に収めようとしているとみられるのだが、そうした国のなかには先進国も含まれ、とりわけフランスによる不透明な関与はしばしば指摘されている。

リビアで緊張が高まっていた2017年7月、フランスのマクロン大統領はシラージュ首相、ハフタル将軍と三者会談をもち、緊張緩和を演出したが、そのシラージュ首相は今月に入ってリビア国民軍が進撃を開始した直後、「フランス政府がハフタル将軍を支援している」と批判し、これをやめさせるよう各国に呼びかけている。

NATOの分裂

フランスの動向に最も神経をとがらせているのが、かつてリビアを植民地支配し、現在では統一政府の主な支援者でもあるイタリアだ。

イタリアのサルヴィーニ副首相は「フランスはリビアの安定に関心がない。それは恐らく石油のためで、これはイタリアの利益に全く反する」と名指しで批判している。

2011年から続く戦闘で生産が停滞しているものの、リビアは潜在的には世界屈指の産油国で、2015年段階の確認埋蔵量484億バレルはアフリカ大陸第1位だ(BP)。歴史的な関係を反映してイタリアはリビアの油田開発で有利な立場にあり、IMFの統計によると2018年段階でリビアの輸出額(ほとんどが石油)に占めるイタリアの割合は19.9パーセントで第1位だった。ちなみに、フランスのそれは12.3パーセントだった。

つまり、サルヴィーニ副首相はフランスがリビアでの権益を拡大させるため、反政府勢力を支援し、政権を入れ替えようとしているというのだ。フランスとイタリアはいずれも北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、G7メンバーでもあり、こうした発言は異例とも映るが、両国関係はすでに第二次世界大戦後の最悪レベルといわれるほど悪化している。

2月には、イタリアのディマイオ副首相が昨年末からフランスで毎週デモを行っているイエロー・ベスト運動の指導者らと会談し、支援を約束した直後、フランス政府がこの「内政干渉」に対してイタリア大使を国外退去させる事態となった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story