ドイツ新右翼「第二次世界大戦は終わっていない」──陰謀論を信じる心理の生まれ方
よくみられたい願望
最後に、「自己イメージをよくする欲求」について。
低所得など社会的に不利な立場にある者にとって、「力のある他者」を非難することは、自分の力や正しさをアピールし、自分を認めさせる意味がある。そのこと自体は多くの政治活動に共通するが、陰謀論者はとりわけ「脅威が迫っていること」を強調することで、自分たちの正当性を主張する傾向が強い。
ダグラス博士らによれば、それは往々にして「社会全体や自分が所属する陰謀論者の狭い世界で自分を認めさせる」ことにつながる。承認欲求に突き動かされるとすれば、陰謀論者が「人が知らないことを自分は知っている」と吹聴したがることは、不思議でない。
この心理は、「力のある者」や社会全般に対する、倒錯した優越感になりやすい。ダグラス博士らは、陰謀論に傾いた集団が多くの人々から理解されないことを自覚しながら「力のある者」への非難をやめないことを、「集団的ナルシズム」に基づくものと指摘する。
こうしてみたとき、「帝国の市民」がドイツ社会で排除されても、「抑圧」は陰謀論者にとって、かえって培養土にさえなりかねないといえる。
陰謀論者の時代
「帝国の市民」の台頭は、海外からみて一種の笑劇かもしれない。
しかし、格差や個人の疎外といった社会の歪みが大きくなるにつれ、その被害者としての意識をもち、国家や社会を糾弾する陰謀論者は、多くの国で支持者を動員し始めている。
トランプ氏が自らに批判的なメディアを「フェイクニュース」と断じ、それが一定の支持を集めることは、「エリートの陰謀」を確信する有権者が数多くいることを示している。いわばトランプ氏は陰謀論を支持獲得のために利用しているのだが、それは疑心暗鬼や相互不信を加熱させる一因にもなっている。
つまり、陰謀論がもつ影響力は、もはや笑って済ませられないレベルにまできているのだ。ダグラス博士らの研究にみられるように、欧米諸国では陰謀論に関する研究が活発化しているが、これは陰謀論に対する警戒感の現れである。
その意味で、数ある陰謀論のなかでも荒唐無稽ぶりで際立つ「帝国の市民」の台頭は、各国にとってむしろ学ぶべき教訓といえるだろう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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