コラム

【アメリカ】泥沼のアフガニスタンからの「名誉ある撤退」は可能か──タリバンとの交渉の落とし穴

2018年08月07日(火)19時30分

2018年1月、タリバンは首都カブールで外国人が多く滞在するホテルや大使館が多く集まる地域を相次いで襲撃。1カ月間に100人以上の死者を出した。

この直後、トランプ氏は「我々はタリバンと対話していない。タリバンとの対話を求めてもいない。我々は終わらせるべきことを終わらせる」と言明。軍事力を前面に押し出した強気の姿勢をみせた。

有利なのは誰か

しかし、取りつく島のないほど強気の姿勢を見せ、その後に交渉に転じるのは、北朝鮮問題などでもみられたトランプ流の交渉術でもある。「対話を求めていない」と明言してわずか半年後、冒頭で述べたように、トランプ政権はタリバンとの接触を始めた。

軍事力を増強し、対話を否定してきたトランプ氏には、「マウントポジションをとられたとタリバンに認めさせたうえで、有利な交渉に臨む」という計算があるのかもしれない。さらに、タリバンがISまでも相手にしなければならず、敵を減らしたい状況は、トランプ政権にとって追い風のようにも映る。

とはいえ、状況はトランプ政権に有利とはいえない

ISの乱入によって敵を減らしたい状況はアメリカも変わらない。さらに、1月にカブールで相次いだテロ攻撃は、タリバン掃討作戦の限界を露呈した。

むしろ、交渉を早期にまとめる誘惑にかられやすいのは、中間選挙を控えたトランプ政権の方である。

先述のように、アフガニスタン撤退はアメリカにとって、外交・安全保障上の問題であると同時に、国内政治の問題でもある。そのうえ、北朝鮮との交渉に具体的な成果が乏しく、イラン核合意を廃棄しても各国がこれに同調せず、シリアではロシアに優位に立たれているトランプ氏にとって、有権者に「アメリカを守るリーダー」をアピールできる手段は残り少ない。

この状況下で進む直接交渉は、必ずしもトランプ政権のペースにならないとみられる。

味方を切り捨てる合理性

この観点からみれば、アメリカがアフガニスタン政府を交えず、タリバンと一対一で交渉していることは不思議でない。

アメリカにとって重要なのは早期撤退だが、その最低限の前提として停戦合意は欠かせない。言い換えると、たとえ口約束でも停戦合意さえ成立すれば、アメリカにとって撤退の道は大きく開く。

これに対して、アフガニスタン政府の立場からすると、停戦合意だけでは全く不十分で、タリバンの武装解除や資金源となっている麻薬貿易の規制など、より踏み込んだ対応が欠かせない。しかし、これらはタリバンにとって呑むのが難しい。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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