米国によるイラン制裁の限界と危険性―UAEの暴走が示すもの
フーシ派はサウジの最大の敵、イランに支援されています。そのため、この軍事介入を主導したサウジのサルマン国防大臣(現・皇太子)は、有志連合への参加をスンニ派諸国に対する「踏み絵」としてきました。部隊を派遣しなかったパキスタンに経済制裁が敷かれたことは、その象徴です。
その結果、イエメン内戦は「スンニ派とシーア派の宗派対立」、「サウジとイランの代理戦争」の様相を濃くしていったのです。
サウジにとって最も重要な「足場」は、ペルシャ湾岸の君主国家の集まり湾岸協力会議(GCC)加盟国(サウジ、UAE、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン)です。そのなかでもUAEは、サウジとともに有志連合の中核を担ってきました。さらに、イランとの関係などを理由に、2017年6月にサウジがGCC加盟国カタールと断交した際、真っ先にこれに同調した国の一つがUAEでした。
こうしてUAEは、サウジというビッグブラザーを支える忠実な弟分として、いわばスンニ派諸国の主流としての立ち位置を得たのです。また、リゾート地ドバイを抱えるUAEには、トランプ大統領の名を冠したゴルフ場もオープンしています。
サウジとUAEの不協和音
ところが、UAEとサウジの間には、徐々に不協和音が目立つようになりました。その焦点は、フーシ派と対立するハーディ大統領が、イエメンのスンニ派政党「アル・イスラーハ」と協力していることでした。
アル・イスラーハは、20世紀初頭にエジプトで生まれたイスラーム組織「ムスリム同胞団」をルーツにもちます。しかし、ムスリム同胞団は米国を含む西側諸国だけでなく、イスラーム圏のいくつかの国でも「テロ組織」に指定されてきました。とりわけUAEは、独立以来、ムスリム同胞団への警戒が最も強い国の一つです。
これに対して、サウジアラビアはムスリム同胞団をテロ組織に指定しておらず、イエメン内戦でもフーシ派への対抗上、アル・イスラーハへの支援を強化。これは長年国内でムスリム同胞団を脅威として捉えてきたUAEにとって、受け入れがたいものでした。
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