イランとイスラエルの「ミサイル応酬」ー米国を引っぱり出したいイスラエルの焦点は「米国防長官の去就」
第三に、イランは既にヒズボラなどのシーア派組織だけでなく、ハマスなどスンニ派組織をも支援しています。イランを攻撃すれば、これらによる反米テロを促すことにもなります。
最後に、国内の支持を考えても、新たな戦線を開くことはトランプ政権にとってリスキーです。イラン核合意の破棄は2016年大統領選挙での公約でもあったので、中間選挙を控えたトランプ政権にとって、むしろプラスの要素だったといえます。しかし、直接攻撃は公約になかったことで、話が違います。
これらに鑑みれば、イスラエルがイランを頻繁に攻撃し、そこに参加することを暗黙のうちに求めたとしても、米国が腰をあげる可能性は大きくないといえます。
最悪のシナリオ「ボルトン国防長官」
ただし、米国が動く懸念もゼロではありません。その一つの試金石となるのが、マティス国防長官の去就です。
マティス国防長官は軍人としてイラク戦争にも従軍。「狂犬」の異名を持つ、筋金入りの軍人で、イランへの厳しい態度でも知られます。また、重要閣僚が相次いで離職・罷免されるなか、トランプ政権発足当時から在任する数少ない閣僚で、一時は政権の要とみなされていました。
しかし、マティス氏とトランプ氏の方針は、徐々に食い違いが目立ち始めています。トランプ大統領はシリアからの撤退を模索していますが、マティス国防長官はIS対策の必要性などから、米軍駐留を推しています。また、マティス氏はイラン核合意の破棄にも反対の姿勢をみせていました。そのマティス国防長官は4月26日、「イランとイスラエルの直接衝突が近い」と述べたうえで、「米軍はシリアでの活動に向かう」とも強調しています。
一方、マティス国防長官に代わって政権内で台頭しているのは、3月に就任したポンペオ国務長官とボルトン大統領補佐官です。マティス氏を上回る強硬派の二人が政策決定で大きな影響力を持つにつれ、マティス氏は孤立しつつあるといわれます。
この状態が続いた時、これまでのパターンでいえば、マティス氏が職を離れる公算は小さくありません。その場合、二人のうちの、特にボルトン氏が国防長官に就任すれば、米国が軍事活動に向かうことが予想されます。
ボルトン氏は「フセイン政権による大量破壊兵器の保有が米国にとっての脅威」という主張のもと、ブッシュ政権が2003年に行なったイラク侵攻の中心人物です。9日、ボルトン氏は「イランが我々を戦争の淵に連れ出している」と主張しています。イラクの時と同様、ボルトン補佐官は「相手国の(存在が確認されていない)大量破壊兵器の脅威」を強調しており、その先には「米国にとって脅威となるなら、米国は一国でも行動する」という主張が予想されます。
つまり、「狂犬」と呼ばれながらも現実的なマティス氏がその職を離れ、ボルトン氏が国防長官に就任した場合、トランプ政権はイラン攻撃に大きく傾くとみられます。その場合、先述のようなリスク、とりわけ米朝関係や米ロ関係の悪化やイスラーム過激派の復調が世界全体に大きな脅威をもたらすことは、容易に想像されます。世界は深刻な岐路に立っているといえるでしょう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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