シリア攻撃で米国が得たもの──「化学兵器使用を止める」の大義のもとに
国内へのアピール
第三に、国内へのアピールです。
クリミア危機などでみられた、プーチン大統領の強硬な外交・安全保障政策を背景に、米国では反ロ感情が広がっており、2017年の調査では「ロシアの力と影響力は我が国にとって主な脅威である」という回答は、米国市民の47パーセントにのぼりました(世界平均は31パーセント)。
のみならず、2016年大統領選挙での「ロシア疑惑」をめぐり、トランプ大統領は守勢に立たされています。4月10日にホワイトハウスは、この問題を調査するムラー特別検察官を解任する権限が大統領にあると明言。しかし、実際にそれをすれば、疑惑をさらに深め、トランプ氏の支持をこれまで以上に危うくしかねません。
その意味で、中間選挙を控え、公約の多くを実現できていないトランプ大統領にとって「ロシアと対抗する」ことは、支持を獲得する有効な手段といえます。その効果は、「アサド政権による化学兵器の使用」という、保守とリベラルを越えた支持を得やすい大義があることで、さらに大きくなるとみられます。
米ロ対立のエスカレート
こうしてみたとき、「化学兵器の使用は認められない」という人道上の大義に基づくミサイル攻撃は、いくつかの伏線のうえに成り立っているといえます。トランプ政権にとってそれらの目標が首尾よく達成できるかは不透明ですが、少なくともそれらと引き換えに行われたミサイル攻撃の余波は、北朝鮮情勢を含め各国に及ぶとみられます。
なかでも、今回の攻撃がロシアとの緊張をこれまでになく高めたことは確かです。プーチン大統領はこの攻撃を「国家の主権の侵害で国連憲章に違反する」と非難。米英仏はロシア軍の施設を回避して攻撃した模様ですが、それでも双方の軍事行動がこれまでにない近距離で行われています。これは第二次世界大戦後、米ロが最悪の緊張状態に突入したことを象徴しており、今後も各国は予断なく注視する必要があるといえるでしょう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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