コラム

欧米諸国が「ロシアの選挙干渉」を嫌う理由──最初に始めたのはこっちだから

2018年02月01日(木)18時30分

当時、EUはウクライナに加盟を提案していましたが、これに対してロシアが強い拒絶反応を示していました。ヤヌコヴィッチ氏はロシアとの関係を重視していましたが、マナフォート氏の提案を受け入れ、選挙においてはEU加盟を支持。この選挙戦術により、ヤヌコヴィッチ氏は地滑り的な勝利を手に入れたのです。いわば「縄張り」をもぎ取られることへのロシアの警戒感は高まり、これが2014年のクリミア半島併合に至る一つの要因となりました。

ここで重要なことは、マナフォート氏が2016年の米大統領選挙で、トランプ陣営に雇用されたことです。米国は社会的な流動性(モビリティ)が高く、次々と職や職場を移ることが珍しくないことで知られます。連邦政府で務めていた人間が、翌年には民間企業で、その次の年にはNGOで働いていることさえあり、この様は俗に「回転ドア」と呼ばれます。

つまり、「回転ドア」を通じてヒトが頻繁に移動する米国では、民間の企業・団体と政府が結びつきやすいといえます。言い換えると、選挙アドバイザーなど民間の企業や個人の活動が米国政府と無関係とはいえないのです。

映し鏡としてのロシア

カリブ出身の精神科医で哲学者のフランツ・ファノンは、ナチズムについて以下のように述べています。「ゲシュタポはせっせと働きまわり、牢獄は一杯になる。...人々は驚き、憤慨する。...そして以下の真実を自分自身に隠す。...このナチズムを耐え忍ぶ前に支持したということを。これを許し、これに目をつぶり、それまでは非ヨーロッパ民族にしか適用されてこなかったのでこれを改めて承認したということを」【フランツ・ファノン『黒い皮膚、白い仮面』】。要するに、ナチスがヨーロッパで行ったことは、それ以前にヨーロッパ人がヨーロッパの外でしてきたであり、その間のほとんどのヨーロッパ人は見て見ぬふりをしていたが、それが自分たちの身に降りかかった途端に憤った、というのです。

この観点からみれば、「ロシアの選挙干渉」に対する欧米諸国の神経質な反応は、単なるロシアとの勢力争いという文脈だけで片付けられるものでもありません。つまり、(仮にロシア政府による働きかけがあったとすれば)ロシアの応酬は、これまで「自由と民主主義の旗手」という表向きの顔の裏で欧米諸国が欧米諸国以外で行ってきた、自国にとって都合のよい政権の誕生のための干渉を、むしろ浮き彫りにするものだからです。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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