コラム

欧米諸国が「ロシアの選挙干渉」を嫌う理由──最初に始めたのはこっちだから

2018年02月01日(木)18時30分

しかし、少なくとも民主化圧力を受ける立場からすれば、それが「内政干渉」であったことは否めません。それだけでなく、親欧米的な国の場合は深い関係にある現職を支援したり、逆に反欧米的な国の場合は野党候補を支援したりするなど、欧米諸国自身の利益が念頭にあることも稀ではありません。その典型的な例は、1991年のソ連崩壊後のロシアでした。

ロシア発足直後のエリツィン政権のもと、米ロは蜜月時代を迎えていました。この背景のもと米国はロシアの内政に深くかかわり、1996年のロシア大統領選挙でエリツィン陣営は共和党と深く結びついていたサンフランシスコのフレッド・ローウェル弁護士をはじめ、何人もの米国の選挙コンサルタントを選挙アドバイザーとして起用。不人気だったエリツィン氏の当選を支援しました。

その一方で、エリツィン政権は急速な市場経済化を促進。天然資源開発などを中心にエクソンモービルなど名だたる欧米企業の投資が相次ぎ、そのなかで新興財閥(オリガルヒ)と呼ばれるロシアの富裕層も登場しました。オリガルヒは欧米企業とともにエリツィン政権に接近し、汚職を加速させる一因となりました。

このようなエリツィン時代の混迷の反動として台頭したのが、プーチン大統領でした。「弱っていたロシアにつけこんだ欧米諸国」への不満がロシアで渦巻いていたことを考えれば、国家主義的な主張を展開し、新興財閥を壊滅させ、さらに欧米諸国と敵対的な態度を示すプーチン大統領が高い人気を維持することは、不思議ではありません。

「回転ドア」の不透明さ

こうしてみたとき、相手国の選挙や政治に何らかのかかわりをもつことは、今に始まったものではなく、ロシアに限ったものでもありません。

このような観方に対しては、「欧米諸国の場合は企業や民間団体、個人の活動で、ロシアの国家ぐるみのものとは分けて考えるべき」という異論もあり得るでしょう。確かに、欧米諸国とりわけ米国の場合、確かに企業を含む民間団体の活動は活発で、いかにも民間が政府から独立しているようにみえがちです。しかし、米国では民間と政府の垣根は低く、それは結果的に両者が一体のものとなりやすいことをも意味します。

一例をあげると、ウクライナでは2010年に大統領選挙が行われ、この際に親ロシア派のヤヌコヴィッチ氏が当選しましたが、この際に同氏の選挙アドバイザーだったのが、米国のコンサルタント、ポール・マナフォート氏でした。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story