コラム

欧米諸国が「ロシアの選挙干渉」を嫌う理由──最初に始めたのはこっちだから

2018年02月01日(木)18時30分

あからさまな「内政干渉」にあたる以上、プーチン大統領は公式には「選挙干渉」を否定しています。しかし、仮に「欧米諸国が今までやってきたことではないか」と居直られた場合、欧米諸国に返す言葉はありません。自らの行為を映し鏡のようにみせられたからこそ、欧米諸国は「ロシアの選挙干渉」に神経質にならざるを得ないといえるでしょう。

「自由と民主主義」の二側面

これに加えて、「ロシアの選挙干渉」が関心を集めるにつれ、開発途上国では「欧米諸国による選挙干渉」への関心も高まっています。

2017年8月、大統領選挙を控えていたケニアから、野党「国民スーパー連合」(NASA)と契約していた米国人とカナダ人の選挙アドバイザーが退去しました。欧米諸国は同国のウフル・ケニヤッタ大統領の人権侵害などに批判的である一方、ケニヤッタ氏も「ケニアへの干渉」を拒絶する声明を再三発表していました。NASAの選挙アドバイザーの退去は、ケニア政府の圧力によるものとみられます。

ケニア政府の論理は「干渉の拒絶と人権侵害」がリンクしており、その意味で正当ともいえません。

とはいえ、確かなことは、「ロシアの選挙干渉」疑惑で欧米諸国が神経質になればなるほど、これまで「欧米諸国の選挙干渉」に批判的だった勢力が声をあげやすくなっているということです。それは欧米諸国の求心力の低下を促すことで、結果的にロシアの国際的な影響力を高めることにもつながります。

冷戦終結後の世界で、「自由と民主主義」は欧米諸国の発信力を高める要素だったといえます。しかし、その強みは今やアキレス腱にもなりつつあります。これは冷戦終結後の世界の常識が変動しつつあることの、一つの兆候ともいえるでしょう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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