コラム

エチオピア非常事態宣言は民族共存の挫折、日本企業にボディブロー

2018年02月20日(火)18時30分

エチオピアを含む北東アフリカは、地中海からスエズ運河と紅海を抜け、インド洋に至る海上交通の要衝です。世界全体の海上貿易量の8パーセントはスエズ運河を通航しているといわれ、日本のタンカーやコンテナ船も数多く航行しています。

その一方で、この一帯はアフリカでも屈指の不安定地域で、周辺のソマリア、エリトリア、スーダン、南スーダンなどでは内戦やテロが後を絶ちません。このなかにあって、エチオピアは政治的に安定し、経済的にも順調に成長している数少ない例外であるだけでなく、平和維持部隊の派遣や和平調停などを通じて地域の安定化に寄与してきました

そのエチオピア自身が不安定化することは、海上交通にも小さくない影響をもちます。ソマリアに拠点をもつアルカイダ系の過激派組織アル・シャバーブは、資金調達の一環としてソマリア沖で海賊行為を繰り返す一方、ソマリア政府とともに和平に取り組むエチオピアと対立してきました。エチオピアの混乱はアル・シャバーブの行動範囲を広げることになるとみられます。

日本にとってのボディブロー

既に、日本の運輸企業は北東アフリカを通過するルートを削減し始めています。

世界的な経済成長にともない、スエズ運河を通過する船は増加しており、2017年には1万2934隻が通過し、これは前年比2.5パーセントの増加でした。ところが、日本船主協会の統計によると、スエズ運河を通過した船が2015年には1172隻であったのに対して、2016年には1066隻と前年比で9パーセント減少。その最大の要因は地域の不安定化とみられ、日本の運輸企業は南北アメリカ大陸へのルートとして、スエズ運河からパナマ運河へのシフトを進めています

ところが、世界全体の海上貿易量の5パーセントが通航するパナマ運河の最大の難点は、混雑と通行料にあります。

もともとスエズ運河と比べてパナマ運河は通航可能な船のサイズがやや小さく、混雑しがち。拡幅工事も進められてきましたが、それは結果的に通行料の高騰につながっており、2017年6月に8万4000立法メートル以上のガスタンカーのそれが29パーセント引き上げられ、45万5080ドルになりました。これは、直接の比較ではないものの、やはりスエズ運河の拡幅工事を繰り返してきたエジプト政府が2017年8月に石油タンカーの通行料をほぼ半額に切り下げたことと対照的です。

目的地や船のサイズにより、スエズとパナマのいずれのコストパフォーマンスがよいかは、ケースバイケースです。とはいえ、エチオピアの政情が悪化すれば、これまで以上にスエズを避ける企業が増えて、さらにそれがパナマ運河の一種の「便乗値上げ」を招いても、不思議ではありません。これに鑑みれば、遠いエチオピアで「エスニック連邦主義」が挫折したことは、民族共存と民主主義の両立の難しさとともに、日本の貿易にとってのボディブローがさく裂したことをも示すといえるでしょう。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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