コラム

エチオピア非常事態宣言は民族共存の挫折、日本企業にボディブロー

2018年02月20日(火)18時30分

この背景のもと、2015年選挙では野党関係者500人以上が「反テロ法」に基づいて逮捕されただけでなく、その不審死も頻発。アムネスティ・インターナショナルは「司法を経ない処刑」と呼びました。

オロモ人の抗議活動が広がるなか、2016年10月にハイレメリアム首相は半年間の非常事態を宣言。ソーシャルメディアへの投稿、頭上で手首を交差させる仕草(抗議のシンボル)、各国外交官のアディスアベバから40キロ以上遠方への移動、夜間外出、「テロリストメディア」の視聴などが禁じられました。

それでも抗議活動が収まらず、オロモ人だけでなくアムハラ人(27パーセント)の間にも広がりをみせはじめました。オロモとアムハラの人口は、合計で全体の約60パーセントを占めます。この背景のもと、2018年1月にハイレメリアム首相は6000人以上の政治犯を釈放。野火のように広がる抗議デモの沈静化を図りました。しかし、その勢いをもはや止めることはできず、辞任に追い込まれたのです。

民主主義と民族共存の食い合わせ

こうしてみたとき、エチオピアの政変には、経済停滞とともに、同国特有の「エスニック連邦主義の挫折」という要因があったといえます。「エスニック連邦主義」の名のもと、実際にはEPRDFの一党支配が正当化されていたことに鑑みれば、今回の政変を受けて、抑圧されていたオロモ人やアムハラ人を中心に「より民主的な国になること」を求める主張が噴出することは不思議ではありません。

ただし、ここで難問として浮上するのが「民主主義と民族共存の兼ね合い」です。民主主義の原理を強調すればするほど、「多数派の支配」に行き着き、それは結果的にオロモ人やアムハラ人が全てを握り、少数派民族が疎外されるという、これまでと逆の構図になって終わりかねません

同様のことはアフリカ外でも珍しくなく、イラクでは2003年の米軍による侵攻で、少数派であるスンニ派中心のフセイン政権が倒れ、入れ違いに多数派であるシーア派中心の政権が民主的な手続きにのっとって発足したものの、それがスンニ派の排除につながり、これが結果的にスンニ派の「イスラーム国」(IS)が台頭する土壌となりました。

先述のように、どんな制度も、導入しただけで本来の理念に沿うものができるとは限りません。単に制度的・法的に問題のない手順を踏むだけでなく、その理念に照らした深慮がなければ、「仏作って魂入れず」を繰り返すことになりかねないことへの懸念をエチオピア政変は示しているといえます。

北東アフリカ不安定化の加速

ところで、今回のエチオピア政変は日本を含む各国にとっても無縁ではありません。それは「民主主義と民族共存の両立」という次元だけでなく、経済の領域に関してもいえることです。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story