コラム

南アフリカ・ズマ大統領の辞任がもつ意味──経済停滞でアフリカに広がる「失脚の連鎖」

2018年02月16日(金)17時46分

アフリカに広がる「失脚の連鎖」

そして、この状況は南アフリカに限りません。経済停滞を背景に、アフリカでは政治的な不安定が表面化しており、アフリカのなかでも大国とみられる国もその例外ではありません。

ズマ氏が辞任した2月15日、北東アフリカのエチオピアでも、ハイレメリアム・デサレン首相が辞任。エチオピアは農業を中心に順調に経済発展を続けており、資源価格下落の影響も比較的小さく済みました。また、政治的にも安定していることから、各国企業の投資が相次いでいます。

しかし、そのエチオピアでも2015年以降、民族間の対立を背景に抗議デモなどが頻発。デサレン首相は辞任に追い込まれました。エチオピアはソマリアなどでのテロ対策に中心的な役割を果たしているだけに、その不安定化は地域一帯だけでなく、この地に進出を目指す各国にとっても無縁ではありません。

さらに、アフリカ随一の産油国であるナイジェリアでも、経済改革の停滞などを理由にムハンマド・ブハリ大統領の辞任を求める声が噴出。ブハリ大統領は、原油価格の下落に前任者のジョナサン大統領が有効に対応できないことへの不満を背景に、2015年に就任したばかりです。しかし、産油国はとりわけ資源価格の下落で大きな影響を受けやすく、それに加えてイスラーム過激派ボコ・ハラムの活動などがブハリ政権の足元を揺るがしています。

アフリカの試練

こうしてみたとき、それぞれの国によって事情に違いはあるとしても、アフリカ諸国は多かれ少なかれ不安定化の局面を迎えているといえます。

いつの時代、どこの国でも国民が政府に期待するものは生活の安定であり、その期待が裏切られた時に為政者がその座を維持することが困難な点では、民主的な国であろうと、そうでなかろうと同じです。特に、低所得国は世界経済の影響を受けやすいため、今後アフリカで政治的な不安定が広がることが予想されます。南アフリカのズマ退陣は、その典型例といえます。

ただし、外部からの影響がその一因であるとしても、汚職などアフリカ各国のガバナンスの不備もまた、その不安定化の大きな原因であることも確かです。アフリカブームの終焉はアフリカ各国に、より足もとを固める必要性を改めて告げるものといえるでしょう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IT大手決算や雇用統計などに注目=今週の米株式市場

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story