南アフリカ・ズマ大統領の辞任がもつ意味──経済停滞でアフリカに広がる「失脚の連鎖」
ただし、その一方で、先述のように南アフリカでは報道の自由や民間団体の活動は保障されています。そのため、白人だけでなく黒人の中間層などからも政府への批判的な意見は出やすい環境にありますが、ズマ政権のもとでの汚職の広がりや生活苦への不満は、ズマ氏の大統領選出の基盤でもあった低所得層からの幻滅をも呼び起こすことになったのです。
ズマ批判が広がるなか、2016年4月、2017年8月に相次いで野党が議会でズマ氏に対する不信任決議案を提出。2016年の場合、233対143で不信任決議は否決されました。しかし、2017年の際には与党からも離反者が続出。198対177で不信任決議が否決されたものの、ANC内部でもズマ支持者が減少する兆候がみられたのです。
さらにその後も各所からのズマ批判は収まらず、2017年10月には最高裁がズマ氏の大統領就任以前の783件の収賄容疑を認定する判決を決定。ズマ氏は無実を主張しましたが、もはやその不支持の動きは止められず、12月のANC代表選挙でシリル・ラマポーザ副大統領がズマ氏の妻ノーサザーナ・ドラミニ・ズマ氏を破って当選。ラマポーザ新体制のもとのANCから辞任勧告を受け、冒頭に述べたように2月15日にズマ大統領は辞任に追い込まれたのです。
ズマ辞任で南アフリカは変わるか
ただし、ズマ氏が辞任したことで、南アフリカを取り巻く状況が大きく変化するかは疑問です。
ズマ氏辞任を受け、繰り上りで副大統領から昇格したラマポーザ新大統領は、かつてマンデラ氏の側近として反アパルトヘイト運動を率いた人物で、鉱山労働者の労働組合の責任者を務めた経験も持ちます。そのため、大統領就任以前のズマ氏と同様、低所得層を支持基盤とします。
ただし、かつての反アパルトヘイト運動の闘士も、権力を握って以降は腐敗などの噂と無縁ではありません。特に、先述の2012年のマリカナのプラチナ鉱山の事件で、ラマポーザ氏は警察による強硬な鎮圧を支持した急先鋒として知られます。ラマポーザ氏は鉱山関係の労働組合を握る一方、マリカナの鉱山を経営する英国企業ロンミンの経営にも参画していました。
つまり、政治権力と個人的な利益が直結しやすい点で、ズマ氏とラマポーザ氏の間に大きな差はないのです。そのため、ラマポーザ新体制のもとで南アフリカの経済や生活状況に大きな変化が生まれない限り、「憎悪の的」ズマ氏の退任で一時的に溜飲を下げたであろう低所得層の間から、再び政府批判が噴出することは避けられないとみられます。それは南アフリカを慢性的な政情不安に向かわせかねないといえるでしょう。
「核兵器を使えばガザ戦争はすぐ終わる」は正しいか? 大戦末期の日本とガザが違う4つの理由 2024.08.15
パリ五輪と米大統領選の影で「ウ中接近」が進む理由 2024.07.30
フランス発ユーロ危機はあるか──右翼と左翼の間で沈没する「エリート大統領」マクロン 2024.07.10