トランプ「肥だめの国」発言から「二つの人種差別主義」を考える
移民政策についての会合でアフリカや中米からの移民について「肥えだめのような国からなぜあんなにやってくるんだ」と発言したとされるトランプ米大統領 Jonathan Ernst-REUTERS
<植民地時代に完成した人種差別は、これからは先進国のアキレス腱になリかねない>
米国トランプ政権の内幕を暴露した『炎と怒り』が話題となっているなか、1月12日に米国の複数メディアは、前日の移民に関する議員との会合の席上でトランプ大統領がアフリカ諸国やハイチを指して「なぜ『肥だめの国』(shithole countries)からの移民を受け入れているのか」と発言したと報じました。
報道が確かなら、この発言が極めて差別的であることはいうまでもありません。この発言が報じられるや、国連人権高等弁務官事務所のスポークスマンは「人種差別主義というより他ない」と批判。また、名指しされた中南米やアフリカの各国からも批判が噴出する事態となりました。
その結果、報道が出た11日にホワイトハウスは発言内容を否定していませんでしたが、各所からの批判が噴出した翌12日にはトランプ氏が「そのような発言はしていない」と否定。ただし、問題の会議に同席していた民主党のダービン上院議員は報道内容を確認しています。
「自分のための」人種差別主義
ところで、報じられている「肥だめの国」という表現があまりに露骨であることは確かとしても、トランプ氏に限らず欧米諸国では、しばしばアフリカや中南米に対する差別的な言動がみられます。他者に対する差別や偏見はあらゆる文化、文明でみられるものですが、経済水準が低い国や地域への偏見は、植民地時代の欧米諸国で完成したといえます。
15世紀の大航海時代からヨーロッパ人は海外進出を加速させ、19世紀末までに世界の大部分を支配していきました。植民地支配は各地から農産物や天然資源を輸入し、自国の工業製品を輸出するという経済システムで、そのなかで資本主義経済や自由貿易は発達しました。そのなかで、有色人種を「劣ったもの」とみなすことは、「優勝劣敗」の原理にのっとって、自らの利益の確保を正当化する論理となったのです。
この人種差別主義は、1930年代に中東欧への侵略を進めたナチスで親衛隊隊長を務めたヒムラーの発言に集約されています。「ロシア人やチェコ人にどんな事態が起こったかということについて、私は寸毫の関心も持たない。...諸民族が繁栄しようと餓死しようと、それが私の関心をひくのは単に我々がその民族を、我々の文化に対する奴隷として必要とする限りにおいてであり、それ以外にはない」(丸山真男『現代政治の思想と行動』より修正して引用)。
「相手のための」人種差別主義
ただし、植民地主義は「それが自国のためになる」という露骨な利己主義だけでなく、「優等人種(白人)による支配が劣等人種(有色人種)のためになる」というイデオロギーにも支えられていました。
19世紀のイギリスの哲学者、J.S.ミルは政治参加や団体交渉を制限されていた女性や労働者の権利を擁護し、奴隷解放を支持するなど、当時としては群をぬいた自由主義者でした。
しかし、そのミルでさえ「未開人を文明化するためにはまず彼らを刺激して新しい欲望を持たせねばならない」(『文明論』より)と論じており、これは植民地主義を正当化する論理を内包していたといえます。ミルの19世紀的な限界は、当時のほとんどの白人が有色人種を支配することに抵抗感がほとんどなかったことをうかがえます。
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