コラム

トランプ「肥だめの国」発言から「二つの人種差別主義」を考える

2018年01月14日(日)18時19分

資本主義経済が発達した時代背景のもと、自己責任や自由競争の論理が支配的になるにつれ、「アフリカ人(あるいは有色人種)は働かないから貧しい」という考え方も普及しました。しかし、自由競争の論理は、植民地を「競争力のある」農産物の生産に特化させ、アフリカや中南米の工業化や経済発展を抑え込む構図をも正当化しましたが、そのことは欧米諸国で不問に付されました。人種差別主義は、これらの貧困や経済の矛盾を覆い隠す役割を果たしたといえます。

植民地主義の遺産

第二次世界大戦後、植民地は地上からほとんど姿を消しました。しかし、現在に至るまで欧米諸国には開発途上国、とりわけアフリカを「劣ったもの」と決めつけることは珍しくありません。

それは「肥だめの国」発言から連想される、「アフリカなどが貧しいのは真面目に働いていないからで、そんな連中と関わりをもちたくない」という、いわば分かりやすい「自分のため」の人種差別主義だけでなく、「豊かな国が(遅れた)アフリカを導くべき」と捉える立場も同様です。

2000年に国連総会で採択されたミレニアム開発目標(MDGs)は、貧困対策として初等教育や基礎的医療の普及、ジェンダー平等、HIVなど感染症対策の強化、など8項目が定められました。これらの目標は基本的に、貧困対策を人道的課題と捉える欧米諸国の政府の主導で定められたものでした。

しかし、その決定プロセスにおいてアフリカなどの政府は欧米諸国に歩調を合わせる以外の選択肢はなく、彼らが要望する発電所やダム、鉄道などのインフラ整備や経済振興、農業生産などは後回しにされました。そのうえで欧米諸国は「普遍的なもの」と位置づけられたMDGsと援助を盾に、アフリカ各国政府の予算配分にも口を出してきたのです。自らの考え方を暗に絶対視して介入を正当化する点で、これは19世紀の「文明化」の論理とほぼ共通するといえます。

マクロン大統領のアフリカ観

現在の主要国の指導者のうち、この立場の代表格はフランスのマクロン大統領といえます。2017年6月、マクロン大統領はコートジボワール(フランスのかつての植民地)の記者に対して「アフリカの問題は文明化の問題」と発言し、さらに「女性が7人も8人も子どもを産んでいることが根本的な問題の一つ」と続けました

現在の主要国の首脳のなかで、マクロン氏はトランプ氏と対照的に、しばしばリベラル派の代表格と捉えられています。マクロン氏の「7人も8人も...」という発言は、開発における女子教育の重要性を強調する文脈で出てきたもので、「肥だめの国」発言と比べて多少は理知的かもしれません。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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