コラム

トランプ「肥だめの国」発言から「二つの人種差別主義」を考える

2018年01月14日(日)18時19分

しかし、そこにはフランスが行った植民地分割の影響やフランス企業が現地で(しばしば現地政府と癒着して)大きな利益をあげていることへの言及はなく、むしろJ.S.ミル的な「『劣った』アフリカを導くのは我々」という意識が前面に出ています。その意味で、「文明化の問題」発言もやはり人種差別主義的といえるでしょう。

二つの人種差別主義の共通点

このように欧米諸国に植民地時代の精神性が根深く残っていることは、欧米諸国自身にとってのアキレス腱にもなります。

情報通信技術の発達した現代では、アフリカや中南米の声もグローバルに発信されるようになりました。大手メディアを握る欧米諸国が「国際世論」を左右する状況に大きな変化はないにせよ、開発途上国も単なる「声なき者」ではなくなりつつあります。それは人種差別主義的な言動を見逃されにくくするといえるでしょう。

それに加えて、現代では新興国の台頭が著しく、これらも先進国と同様、アフリカや中南米への進出を加速させています。そのなかには中国のように、必ずしも欧米諸国と友好的といいにくい国も含まれます。つまり、欧米諸国の人種差別主義が目につけばつくほど、アフリカなどが欧米以外との関係を強化することを後押しすることになります。

2015年にMDGsを引き継ぐ計画目標として、やはり国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、MDGsで排除されていた、インフラ建設や経済振興、農業生産などが貧困対策とともに盛り込まれました。これは国際的な発言力のバランスの変化を象徴します。

こうしてみたとき、二つの人種差別主義は道徳的、倫理的に許されないものであるだけでなく、「相手が劣っている」という傲慢さが一方的な行動を生み、あまつさえ欧米諸国の過失や不足を覆い隠し、果ては自らの首を絞める点で共通するといえるでしょう。

ただし、それは欧米以外の国にとっても他人事ではありません。かつてない多文化の時代を迎えながらも外国人への偏見が蔓延する日本も、その例外ではありません。特に、「肥だめの国」発言に近いヘイトスピーチを意識的に叫ぶ者は日本でも人種差別主義とみなされますが、「文明化の問題」発言にみられる宣教師的な態度も同根になり得ることは、意識する必要があるといえるでしょう。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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