コラム

プーチンより毒をこめて:国連総会「エルサレムの地位変更無効決議」にみるトランプ政権の「負け勝負」

2017年12月25日(月)13時00分

一方、オバマ政権は米国歴代政権のなかでもとりわけパレスチナを支援することで中東和平を進めようとした他、イランとの関係改善を目指しましたが、これらがかえってイスラエル側の反発を招いていました。このような背景のもと、2010年にイスラエルとロシアは軍事協力協定に調印。そして、先述のように、今年4月に米国を出し抜く形で西エルサレムをイスラエルの首都と認定したことで、ロシアは一躍イスラエルにとって重要な存在と映るようになったのです。

「トロフィー」と石油

ただでさえロシアは中東一帯での存在感を高めています。特にシリア内戦では、「イスラーム国」(IS)が支配していた要衝アレッポを2016年12月、ロシア軍とシリア政府軍が制圧。さらに2017年6月、ロシア軍はIS指導者のバグダディ容疑者をシリアにおける空爆で殺害したと発表しました

これに対して、米国のマティス国防長官は「バグダディが死亡したという証拠がない」、「証拠が確認されるまで生存していると想定して追跡する」と強調。しかし、12月12日にロシア軍がシリアから撤退し始めたことで、シリアにおける「IS掃討のトロフィー」の大部分をロシアがもっていることが既成事実となりました

これに加えて、米国の伝統的な友好国でもあるサウジアラビアにもロシアは接近。2017年5月、ロシア最大の石油企業ロスネフチとサウジ最大の石油企業サウジ・アラムコの、それぞれの最高経営責任者(CEO)がサウジで会談。両者は石油の協調減産について合意したと伝えられています。

シェールオイル生産を加速させ、世界最大の石油輸出国になりつつある米国は、石油輸出国機構(OPEC)加盟国中最大の産油量をもつサウジと、非OPEC国中最大の輸出国ロシアのいずれにとっても「脅威」です。ロシアとサウジの歴史的な急接近は、サウジなど伝統的な友好国との関係を重視するトランプ政権の焦燥をさらに煽るものだったといえます。

【参考記事】サウジとイランの断絶がもつ意味と影響-中東をめぐるサウジの巻き返し
【参考記事】シリア・ISをめぐるトランプ政権とロシアの距離感:「米国第一」がロシアの利益になる構図

全ての道はエルサレムに通ず

冷戦終結後の米国一極体制を打破し、グローバルなゲームチェンジを目指すロシアの「西パレスチナ首都承認」がトランプ政権に及ぼした影響は大きなものでした。

米国の有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルは5月14日、「ロシアはエルサレムをイスラエルの首都と認定。なぜ米国はできないのか?」と題するノースウェスタン大学教授ユージン・コントロビッチのコラムを掲載。名前からしてロシア系の同教授はイスラエル批判に対する反対者としても有名で、イスラエルのシンクタンク、コヘレト政策フォーラムの研究員でもあります(コヘレトは旧約聖書に記されている知恵者の名)。このコラムでコントロビッチは、遅れを取り戻すためには米国が東部を含む統一エルサレムをイスラエルの首都と認定するべきと主張しています。

「エルサレムでの大使館開設をめぐる米ロのレース」は、その後のイスラエルとの関係を左右すると目されるだけに、ユダヤ人やキリスト教右派の支持を当てにするトランプ氏が、これに敏感になったとしても不思議ではありません。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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