コラム

プーチンより毒をこめて:国連総会「エルサレムの地位変更無効決議」にみるトランプ政権の「負け勝負」

2017年12月25日(月)13時00分

そのため、例えば(ロシアの縄張り)中央アジア諸国や(フランスの縄張り)仏語圏アフリカ諸国など、もともと米国があまり重視していない「切り捨てやすいところ」の援助を部分的に削り、それを過剰に宣伝することで、「ぶれてない」と強調することが見込まれます。本質的な部分での行き詰まりに煙幕をはるため、周辺的な部分で緊張を高める行動パターンは、北朝鮮問題でもみられたものです。

【参考記事】十八番を奪われた北朝鮮はどこに向かうか:トランプ版「瀬戸際外交」の効果とリスク
【参考記事】なぜトランプ大統領は北朝鮮を挑発するか:3つのシナリオとその共通項
【参考記事】チキンゲームの果ての「水爆」実験:追い込み、追い込まれつつある北朝鮮

ただし、これが余計に米国への支持や信頼を失わせることは、いうまでもありません。つまり、援助を削減してもしなくても、米国は大きなダメージを受けるといえます。

ポーカーの基本は、手の内と逆のふりをすることです。つまり、「強い手札の者ほどそれを隠すために弱気にふるまい、弱い手札の者ほどそれを隠すために強気にふるまう」のが常道です。だとすれば、大声で「援助削減」や「国連分担金の削減」を叫ばずにいられないほど、米国は「負け勝負」に臨んでいるといえます。

ロシアの「負けない一手」

米国を無残な「負け勝負」に向かわせた契機は、ロシアの「負けない一手」にあったといえます。

今年4月、ロシアは西エルサレムをイスラエルの首都と承認。これはあくまでエルサレムの西半分に限定したもので、パレスチナ人のものとされる東半分は含まれていませんが、それでも各国に先駆けてのものであったため、イスラエルから大いに歓迎されました。一方、パレスチナ自治政府は「将来的には統一エルサレムをイスラエルと共用すること」を念頭に置いていますが、少なくとも現状において西エルサレムの領有権を主張できないため、これに対して目立った抗議を行いませんでした。

ロシアはイスラエルと対立するイランやシリアを支援してきました。しかし、その一方で、イスラエルと常に敵対してきたわけでもありません。帝国時代から、ロシアには多くのユダヤ人が暮らしていました。その多くはソ連崩壊後イスラエルに移住しましたが、このなかには高度な教育を受けた人々も含まれていたため、その後のイスラエルの科学技術の進歩に少なからず貢献しました。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story