コラム

強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み方──際立つ欧州株と日本株の格差

2025年03月05日(水)11時10分

株高が目立つのはドイツ株などの欧州株

市場心理を悪化させたもう一つの要因が、トランプ政権の政策に対する疑念が再び高まったことである。一時はカナダとメキシコへ(3月ではなく)4月2日に関税発動するとしながら、結局は3月4日、「交渉の余地はない」として、カナダ、メキシコへの関税が発動された。

この関税発動には米国に対するダメージが大きいため、筆者にとっても予想外の政策対応となった。ただ、関税賦課は外交的な取引材料であり、今後の情勢次第では、早期に関税賦課が取りやめられるシナリオが十分想定できる。関税引き上げによって、米国経済が大きく減速するリスクは限定的だろう。

また、2月後半からの米国株価の調整をもたらしているのは、2024年まで株高を牽引しバリュエーションが高まっていた、いわゆるメガキャップ株(時価総額が2000億ドル以上の企業)や半導体銘柄の下落である。これらの銘柄に対して投資資金が2024年末まで集中し過ぎていたのは明らかなので、メガキャップ株の一段高が難しい局面に入っていたのである。

米国株がほぼ年初と同じ水準まで調整する中にあって、2025年の株高が目立つのがドイツ株などの欧州株である。欧州経済は停滞が続いているが、2月19日コラム「トランプ政権の外圧で『欧州経済は回復』、日本経済の停滞は続く」で述べたとおり、トランプ政権の政策転換でウクライナ戦争の収束期待が高まり、同時に軍事費拡大に各国政府が動いている。政策転換による欧州経済の復調への期待が、株価に反映されている。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

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