予想外の円安は日本経済正常化を支える
G7財務相・中央銀行総裁会議で会見する植田和男・日銀総裁 Kiyoshi Ota/REUTERS
<2022年秋のような1ドル150円台までの円安ほど急激ではないが、緩やかな「円の独歩安」が進んでいる。その意味を考える......>
ドル円相場は23年初から1ドル=128-137円のレンジでやや円安気味で推移している。3月には米国の銀行破綻でドル安円高に動いたが、米当局の対応などで大手銀行を含んだ危機には至らなかった。また債務上限問題に関する報道も増えているが、「通貨ドル」は年初対比でややドル安だが総じて安定している。
ユーロドルは、4月初旬の1ユーロ=1.06から5月初旬には一時1.10台にドル安に動く場面があった。ECBの利上げ観測が高まったことに加えて、米国の銀行問題がやや「ドル安要因」になったかもしれない。この同じ期間、ドル円でみると、4月初旬の130円付近から月末までに135円付近に「ドル高円安」になっている。対ユーロでドル安気味だったが、ドル安以上に円安が進んだということである。2022年秋のような1ドル150円台までの円安ほど急激ではないが、緩やかな「円の独歩安」の地合いと言えるだろう。
円安は、日本の衰退をあらわす象徴?
こういう状況になると、円安を理由付けする様々な見方がでてくる。例えば、昨年進んだ円安には、日本の貿易赤字が広がったことが影響している、との見方が良く聞かれる。日々の貿易取引に基づく為替取引で、通貨安になる部分はあるにしても、貿易収支の変動が通貨変動を引き起こす因果関係は曖昧である。
例えば、2008年の原油価格急騰、2011年の大震災などなどに日本の貿易収支赤字に転じた時には、大きく円高が進んだ。また、原油価格が既に昨年の高値からかなり低下しているので、日本の貿易収支赤字は22年後半をピークに23年には縮小しているのだが、2023年の円高要因にはなっていない。
貿易赤字が「日本経済全体の衰退」の象徴と考える論者ほど、購買力の低下を表す円安を同一視しがちだが、これはナイーブな印象論なのだろう。これは、必要な金融緩和や円安をネガティブに報じたいメディアなどの論調とも関連している、と筆者は考えている。
実際には、為替変動は、インフレ動向に影響する金融政策の動向が大きく影響する。4月に円が独歩安で動いたことは、日本銀行に対する市場の思惑で説明できる部分が大きいとみられる。4月の金融政策決定会合を前に、新たな体制を率いる植田日銀総裁がYCC(イールドカーブコントロール)修正を早期に開始するとの見方が後退した。
黒田総裁の後を継ぐ植田総裁の金融緩和への姿勢が変わることが、円高要因になるのではないかと筆者も実は警戒していた。ただ、実際には植田総裁は、YCC修正を含めて正常化に慎重な姿勢を示した。足元で原材料価格上昇の波及効果などでCPIコアが2%を大きく超え、今年の春闘賃上げ率は90年前半以来の伸びを示すほど賃金も上昇している。それでもなお、「賃金の上昇を伴うかたちで 2%の物価安定の実現を目指す」「基調的なインフレ率が2%に達していない」「粘り強く金融緩和を続けたい」などの考えを、記者会見において植田総裁は述べた。
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