コラム

FRBには銀行不安以外に配慮すべき問題がある

2023年04月05日(水)18時10分

先述したとおり、預金流出など他行への伝播を防ぐ対応は徹底されている。また、コロナ後に銀行の預金は急増したが、その一方で顕著な信用創造が起きて、企業や家計で過大な債務が膨らんだ兆候は少ない。このため、今回の銀行懸念が、金融危機を併発して米経済を深い景気後退に招く可能性は高くないと筆者は引き続き考えている。

もちろんこの見立てには不確実性があり、今後情勢を見ていく必要がある。ちなみに、SVB銀行破綻の3月10日前後から一部の銀行で預金流出が起きたが、その後2週間の高頻度の経済活動指標をみると、3月上旬以前と比べてほとんど変化は見られない。

FRBは高インフレへの警戒を再び強める可能性が残っている

これらを踏まえると、FRB(米連邦準備理事会)は銀行問題への配慮だけではなく、高インフレへの警戒を再び強める可能性が残っているということになる。銀行システムが揺らいだことで、FRBメンバーは利上げ継続をより慎重に判断していくだろう。この思惑から、債券市場では7月早々からのFRBの利下げ転換が織り込まれている。今回の銀行システムの揺らぎが大規模な信用収縮を招き、リーマンショックのように経済活動に即座に影響するなら、このシナリオもありえなくはない。

米経済は今後減速すると筆者も予想している。ただ、米経済の減速は、利上げの効果がじわじわと波及する格好で、緩やかな減速をもたらすと見込まれる。そうであれば、FRBは、利上げ見送りが相応に予想されている5月FOMCも利上げを続ける。6月以降利上げを止めたとしても、その後も政策金利を据え置く可能性が高いだろう。

金融危機再発と大幅な金利低下というリスクシナリオへの懸念が後退する中で、3月以降大きく低下した米国の金利は再び上昇する可能性がある。一方、米株市場では2022年に大きく調整した大型ハイテク株は、銀行懸念で金利低下をうけて大きく上昇した。ただ、先述のFRBによる早期利下げに対する思惑が後退すれば、大型ハイテク株が短期的に下げる場面があってもおかしくないとみられる。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英2月CPIは前年比+2.8%、予想以上に鈍化 今

ビジネス

BYD、海外販売を今年倍増へ 関税には現地組み立て

ビジネス

通商政策など不確実性大きい、賃金・物価の好循環「ス

ビジネス

日産、25年度に新型EV「リーフ」投入 クロスオー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 5
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story