コラム

シリコンバレーバンク経営破綻は金融危機につながるか

2023年03月22日(水)16時02分

大型金融危機に至らずに銀行不安はいずれ沈静化する......

そして、中小規模銀行の預金流出、債券投資の損失表面化という経路で起きる金融システムの揺らぎは、歴史的な資産バブル崩壊がもたらしたリーマンショック時と比較すると、当局による制御は難しくない様にみえる。

米財務省などは銀行預金の全額保護の特列対応を行い、金融システムを守る対応を徹底している。また、預金保護に加えて、今回政府によって、中小銀行から預金が流出しても、国債などの資産を売らずに、流動性がFRBから供与される仕組みが早急に整った。

これらの当局による金融システムを維持する対応が徹底されれば、預金流出が更に広がり、米国の銀行システムが再び深刻な機能不全には至らないとみられる。預金保証を含めた金融システム安定化が徹底されると市場が認識し、大型金融危機に至らずに銀行不安はいずれ沈静化する。これが、筆者の現時点でのメインシナリオである。

政治の風向きで政策対応が変わるのは無視できないリスクだが

米国の株式市場では、預金流出に弱い中堅銀行が、SVBと同様に破綻する懸念がくすぶっている。預金流出の動きを直接止める対応は難しい。脆弱な中堅銀行への疑念が払拭されるには、政府・金融当局が、預金保証を含めた預金流出対応を徹底する姿勢への信認が強まる事が必要とみられる。イエレン財務長官が21日に、「中小規模の金融機関が取り付け騒ぎに見舞われ、波及のリスクが生じるような場合は、同様の行動が正当化され得る」と預金保障対応を広げる考えを示したことは、望ましいだろう。

万が一、米国において預金保護の徹底が難しくなるような政治情勢となれば、深刻な金融危機が再来することになる。これは無視できないシナリオだが、可能性は低いリスクだろうと現時点で考えている。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

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