コラム

日銀新執行部で円安が進むか──雨宮正佳氏が新総裁となる場合の影響を考える

2023年02月07日(火)18時30分

「日銀次期総裁、雨宮副総裁に打診」と報じられた......  REUTERS/Issei Kato

<「日銀次期総裁、雨宮副総裁に打診」との記事が大手メディアで報じられた。雨宮正佳氏の総裁就任は相応に確度が高いと思われる。雨宮氏が新総裁となる場合の影響を考えたい......>

2月6日に、「日銀次期総裁、雨宮副総裁に打診」との記事が大手メディアで報じられた。記事によれば、政府関係者や政治家ら複数がソースとなっている模様である。

昨年末から日銀の政策決定に関してメディアの観測報道がヒートアップし、中には的外れな記事も多かった。この記事に関しては、当日に、政府関係者から否定されており真偽は不明である。ただ、今国会での任命が迫るこの時期の大手メディアの報道であり、雨宮氏の総裁就任は相応に確度が高いと思われる。以下では、報道通りに雨宮氏が新総裁となる場合の影響を考えたい。

黒田総裁の政策姿勢はある程度引き継がれるだろう

雨宮氏は、日銀総裁の最有力候補として、メディアで名前が挙げられていた本命である。他にも、中曾宏氏、山口広秀氏の副総裁経験者が候補者としてメディアで挙がっていた。雨宮氏の昇格となれば、現在の黒田総裁の政策姿勢はある程度引き継がれる。岸田政権が金融政策の継続性を重視した、経済成長を重視する自民党政治家との軋轢を避けた、という観点から無難な人選ということだろうか。もっとも、黒田総裁の体制を確実に継承できる、他の選択肢もあったのではないかと筆者は考えている。

この報道が報じられた、2月6日早朝にドル円は1ドル131円付近から132円台半ばに、円安ドル高に動く場面があった。候補として挙げられていた、雨宮、中曾、山口の各氏の相対的な比較では、雨宮氏がもっともハト派に位置付けられるとの、市場参加者の認識に沿った初期反応がみられた。

安倍第二次政権誕生とともに黒田総裁体制となり金融緩和が強化された、2012年末から2013年初に1ドル80円を下回っていたドル円は100円台まで大きく円安に進み、その後も円安基調が定着した。当時は、金融政策のレジーム(体制)が変わったと見なされた。具体的には、主要先進国に遅れて日銀が2%インフレ目標に対してはっきりコミットして、更に従来の日本銀行の政策に対して批判的な論客を総裁、副総裁に任命した。

これで、デフレ克服期待が強まり、日本の金融市場の姿は大きく変わった。超円高の修正をきっかけに、日本株上昇、そして経済成長復調、失業率改善、デフレ脱却、などがその後に起きた。

当時と比べると、現在の金融政策を取り巻く環境はかなり異なっている。現在、2%インフレの「完全実現」には至っていないが、インフレ率がプラスに転じているし、大企業中心に賃上げを積極化させるなど「デフレではない状況」が定着しつつある。2021年以降各国が高インフレへの制御に苦慮する中で、物価安定という観点では、日銀の政策対応は相対的には上手くいっていると位置付けられるだろう(日本のメディアでは、金融緩和政策への批判が目立つが)。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

UAE大統領、トランプ氏と電話会談 ガザ停戦を協議

ビジネス

2月企業向けサービス価格、前年比3.0%上昇=日銀

ワールド

黒海合意、ロシアの利益と世界の食糧安保のため=外相

ビジネス

米食品大手クローガーとアルバートソンズ、合併破談巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 8
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    【クイズ】トランプ大統領の出身大学は?
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story