物価高批判は有権者に響くのか?
立憲民主党は、「物価高と戦う(暮らしを守る)」を選挙公約として打ち出しているが...... David Mareuil/REUTERS
<与野党の構図が大きく変わらないとみられる今回の参議院選挙。党内基盤が盤石とは言えない岸田政権の自民党内での求心力が強まるかどうかがより重要ではないか......>
参議院議員選挙が6月22日に公示された。その後の報道各社の調査によれば、与党の議席獲得が改選議席をやや上回り、野党では日本維新の会が議席を伸ばすとの観測報道が多い。もちろん、昨年の総選挙では世論調査が結果と異なったし、また選挙活動は始まったばかりなので事態は変わり得る。
ただ、野党第一党である立憲民主党への有権者の支持が高まる兆候は、現状少ない。岸田政権のこれまでの政策運営に対する評価は様々だろうが、支持率は総じて高水準を維持しており、「安全に徹した政権運営」が功を奏している。何より、過去数年の国民の関心事だった新型コロナが足元で収束しつつあることが、岸田政権への最大の追い風になっているのではないか。
岸田政権誕生直後に行われた昨年10月の総選挙ほどの「与党勝利」にはならなくても、参議院での与野党の勢力図が変わり、国会運営が困難になる可能性は現状かなり低いとみられる。このため世論調査においても、与党の議席数よりも、一部野党を含めた「改憲勢力」の議席がどの程度増えるかが注目されていると言える。いずれにしても、今回の国勢選挙が、日本の政治情勢に影響を及ぼす可能性は低く、筆者を含めた市場参加者の関心は高まっていない。
立憲民主党が主張する、「金融政策の見直し」
現状の世論調査通りに、野党第一党である立憲民主党の獲得議席が増えないとすれば、その理由は何であろうか。日本の政治動向は筆者の専門外ではあるが、同党はかつての民主党の主要メンバーの存在感が強く、第2次安倍政権時代から野党第一党として政権に対峙してきた。その後は、党名や党首が代わってはいるが、当時の民主党のイメージが強いことに加えて、有権者に信頼される政策の対案を示せていないと考えられる。
政策の論点は、安全保障、外交、経済政策など多岐にわたるが、以下では、金融市場への影響が大きい経済政策を取り上げる。立憲民主党は、「物価高と戦う(暮らしを守る)」を選挙公約として打ち出している。「物価高」に対して、岸田政権が有効な政策を打ち出していないとの批判を全面的に唱えている。
その上で、「円安放置の金融政策の見直し」が必要とされ、インフレ目標を2%とする日本銀行との共同声明を見直すべきとの政策を示している。2022年初からいわゆる「悪い円安」が進んでいるとの一部論者、金融市場関係者などのメディアでの言説が、立憲民主党の経済政策に全面的に取り入れられているとみられる。
ただ、円安が進んでいるが、今、日本で起きているガソリン、電気代、食料品などの価格上昇は、経済全体のインフレ率(一般物価)とは異なる事象である。「生活苦」を招いているエネルギーや食料品の価格上昇は、国際商品市況の上昇によってもたらされており、仮に円安が修正されても状況は余り変わらないだろう。
そして、岸田首相なども述べている、仮に円安に歯止めをかけるために日本銀行が金融緩和を止めれば、インフレに苦しむ米欧と同様に、日本においても金利上昇が起きるだろう。これで、コロナ禍の余波で苦しむ企業や住宅ローンを抱える家計部門にダメージが及ぶことになる。仮に、根拠が薄い「悪い円安」という思い込みによって金融緩和を早期に止めてしまうと、現在の日本経済の状況を踏まえれば、利上げのダメージが大きいので家計の生活はより苦しくなるだろう。
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