コラム

社会批評も風刺もないけれど、映画『アフタースクール』を甘くみたらダマされる

2023年04月19日(水)20時35分
『アフタースクール』

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN

<いい意味で、軽快。伏線回収も見事。脚本まで手掛ける内田けんじ監督の「決意」が見える。「軽い映画だから」と侮るなかれ>

ミステリーとサスペンス。この違いをあなたは知っているだろうか。僕はよく分かっていなかった。要約すれば、ミステリーは真犯人やトリックの謎解きをする作品を示し、サスペンスは謎解きよりも読者や観客に不安や緊張を与えることに主眼を置き、犯人やトリックの謎などを明かした上で解決に至る過程を楽しむ作品ということになるようだ(諸説あり)。

ミステリーの代表作は、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズのシリーズ。つまり名探偵が登場する探偵小説。アガサ・クリスティーや横溝正史などの作品もこの系譜が多い。サスペンスならば刑事コロンボや古畑任三郎のシリーズ、ヒッチコックの『サイコ』や『鳥』、ジョナサン・デミの『羊たちの沈黙』などがある。ホラーとの境界は微妙だし、ミステリーとサスペンスの境界はもっと微妙だ。

どちらにせよ謎解きや伏線回収は重要な要素だ。最近の代表的なミステリー映画をネットで検索すれば、『セブン』『怒り』『ユージュアル・サスペクツ』『メメント』などが上位にランキングされているが、日本映画の場合はほとんどが、(例えば「ガリレオ」シリーズなど)ベストセラー小説の映画化であることに気付く。例外は堤幸彦が監督する「TRICK」シリーズ。ほかにもあるかな。あったら申し訳ないけれど、そもそも今の邦画は、小説やコミックなど他のジャンルで人気を博した作品の映画化が、欧米に比べれば圧倒的に多い。ミステリーやサスペンスに限らず、オリジナル脚本が少ないことは確かだろう。

公開時に『アフタースクール』を見逃していた理由は、軽い映画だと予測したからだ。家は都心からけっこう遠い。映画館に行くためにはかなりの時間と交通費もかかる。その価値があるとは思えなかった。

でも最近、友人から勧められて観て、自分の思い込みを強く反省した。めちゃくちゃ面白い。

ただしやっぱり軽い。悪い意味ではなく、いい意味で。軽快なのだ。僕はどうしても軽い映画は作れないし、好みも重い映画ばかりだけど、でもこの軽さは嫌いじゃない。社会批評も風刺もメタファーもないけれど、観ながらかなり楽しんだ。

自身が卒業した中学校で教師として働いている神野(大泉洋)のもとに、かつての同級生を名乗る探偵(佐々木蔵之介)が訪ねてくる。探偵は、やはり2人の同級生で最近失踪した木村(堺雅人)の行方を追っているという。探偵に依頼されて木村の行方を捜す神野。やがて物語は予想もしない方向に展開する。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ソロモン諸島、新首相に与党マネレ外相 親中路線踏襲

ワールド

米UCLAが調査へ、親イスラエル派の親パレスチナ派

ワールド

米FTC、エクソンのパイオニア買収を近く判断か=ア

ビジネス

インタビュー:為替介入でドル160円に「天井感」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story