社会批評も風刺もないけれど、映画『アフタースクール』を甘くみたらダマされる
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<いい意味で、軽快。伏線回収も見事。脚本まで手掛ける内田けんじ監督の「決意」が見える。「軽い映画だから」と侮るなかれ>
ミステリーとサスペンス。この違いをあなたは知っているだろうか。僕はよく分かっていなかった。要約すれば、ミステリーは真犯人やトリックの謎解きをする作品を示し、サスペンスは謎解きよりも読者や観客に不安や緊張を与えることに主眼を置き、犯人やトリックの謎などを明かした上で解決に至る過程を楽しむ作品ということになるようだ(諸説あり)。
ミステリーの代表作は、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズのシリーズ。つまり名探偵が登場する探偵小説。アガサ・クリスティーや横溝正史などの作品もこの系譜が多い。サスペンスならば刑事コロンボや古畑任三郎のシリーズ、ヒッチコックの『サイコ』や『鳥』、ジョナサン・デミの『羊たちの沈黙』などがある。ホラーとの境界は微妙だし、ミステリーとサスペンスの境界はもっと微妙だ。
どちらにせよ謎解きや伏線回収は重要な要素だ。最近の代表的なミステリー映画をネットで検索すれば、『セブン』『怒り』『ユージュアル・サスペクツ』『メメント』などが上位にランキングされているが、日本映画の場合はほとんどが、(例えば「ガリレオ」シリーズなど)ベストセラー小説の映画化であることに気付く。例外は堤幸彦が監督する「TRICK」シリーズ。ほかにもあるかな。あったら申し訳ないけれど、そもそも今の邦画は、小説やコミックなど他のジャンルで人気を博した作品の映画化が、欧米に比べれば圧倒的に多い。ミステリーやサスペンスに限らず、オリジナル脚本が少ないことは確かだろう。
公開時に『アフタースクール』を見逃していた理由は、軽い映画だと予測したからだ。家は都心からけっこう遠い。映画館に行くためにはかなりの時間と交通費もかかる。その価値があるとは思えなかった。
でも最近、友人から勧められて観て、自分の思い込みを強く反省した。めちゃくちゃ面白い。
ただしやっぱり軽い。悪い意味ではなく、いい意味で。軽快なのだ。僕はどうしても軽い映画は作れないし、好みも重い映画ばかりだけど、でもこの軽さは嫌いじゃない。社会批評も風刺もメタファーもないけれど、観ながらかなり楽しんだ。
自身が卒業した中学校で教師として働いている神野(大泉洋)のもとに、かつての同級生を名乗る探偵(佐々木蔵之介)が訪ねてくる。探偵は、やはり2人の同級生で最近失踪した木村(堺雅人)の行方を追っているという。探偵に依頼されて木村の行方を捜す神野。やがて物語は予想もしない方向に展開する。