コラム

『祭りの準備』黒木和雄の映画論「ドキュメンタリーとフィクションは全く違う」

2021年09月08日(水)20時30分

このとき僕は黒木に食い下がった。でっち上げるという意味で後半の作業はほぼ同じではないのかと。しかし黒木はにべもない。否定され続けて落ち込む僕に、黒木は最後にこう言った。「(前略)ドキュメンタリーとフィクションの価値をあまりに同じにすることによってその境界線が曖昧になって、フィクションもドキュメンタリーも衰弱するっていうことが逆にあるんですね、補強するんじゃなくて。最近、その危険を僕自身と、幾多の若い監督に感じまして。だから、フィクションとドキュメンタリーは違うんだと、取りあえずは言い続けたいと。根っこは全く同じなんですがね」

要するに僕は大ベテランにクギを刺されたわけだ。当時を思い出し、もう一回『祭りの準備』を観たくなった。きっと最初に観たときとは違う景色がたくさん見えるはずだ。

magmori210908_kuroki2.jpg『祭りの準備』(1975年)
監督/黒木和雄
出演/江藤潤、馬渕晴子、ハナ肇、浜村純

<本誌2021年9月7日号掲載>

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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