1人の男と2人の女、突き放される3人の子供 本当の「鬼畜」は誰なのか
松本清張が書いた原作は、検事から彼が聞いたという実話をベースにしている。鬼畜は誰なのか。おなかを痛めた3人の子供を置き去りにした菊代なのか。宗吉を責め立てて犯罪に追い込んだお梅なのか。泣きながらではあっても、実際に手をかけた宗吉なのか。
既に大女優として不動の地位にいた岩下志麻と小川真由美が、とんでもない悪女を演じる。それも女優が演じる(凛とした)悪女ではなく、首筋に汗の粒を浮かべ、貧困と疲弊を身にまといながら男を罵る悪女だ。そしてその2人に責められ続けて、おどおどと言い返せない緒方の演技も素晴らしい。
ラストの言葉は予期できなかった。初めて観たのは20代の頃だったから、今ほど涙もろくはなかったはずだけど、名画座の暗がりで一人、ぐすぐすと洟(はな)をすすっていたことは確かだと思う。
『鬼畜』(1978年)
©1978 松竹株式会社
監督/野村芳太郎
出演/緒形拳、岩下志麻、小川真由美
<本誌2020年10月13日号掲載>
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