『なぜ君は総理大臣になれないのか』は誰に向けた挑発か──小川議員の17年に僕たちの選択を思う
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<エリート官僚コースを捨て、誠実な政治家を志した一人の男に密着する記憶と記録のドキュメンタリー>
『なぜ君は総理大臣になれないのか』。相当に挑発的なタイトルだ。でもその挑発は誰に向けられているのか。被写体である小川淳也衆議院議員(立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム)なのだろうか。
小川は決して著名な議員ではない。でも昨年の国会で、「統計偽装や不正の疑惑について政権を鋭く追及し、SNSなどでは『統計王子』と称されて注目を集めた」と説明すれば、ああ、あの議員か、と思い出す人はいるはずだ。ちょうどこの時期、『ⅰ-新聞記者ドキュメント-』を撮影していた僕は、被写体である望月衣塑子記者と小川が議員会館の彼の部屋で話す状況を撮影した。熱い男だなあと思ったことを覚えている(最終的には編集で落としたが)。
大島新監督は、小川とは17年来の付き合いであることを作品の中で明かしている。つまり被写体との距離の近さを大島は隠さない。選挙活動などパブリックな場だけではなく、小川の家庭にまでカメラは入り込む。作品の冒頭で幼かった2人の娘は、終盤の選挙戦のシークエンスではすっかり大人になって、父の選挙を必死に手伝っている。
東大を卒業して自治省(現総務省)に入省した小川は、そのままのコースを歩めば超エリート官僚だったはずだ。しかし政治家を志した。地盤・看板・カバンは何もない。それほどに総理大臣になりたいのか。大島のこの挑発を小川は否定しない。
ならば野心だけの男なのか。もちろん野心もある。でも小川を突き動かしているのは、国民一人一人の幸福を本気で願う気持ちなのだ。
......さすがに自分の筆致が気恥ずかしい。でも正直な感想だ。それは17年間、小川を見続けた大島の思いでもある。誠実な男だ。そして本気なのだ。でもそれだけでは選挙に勝てない。選挙戦は毎回のように薄氷だ。所属する政党も民主党から始まって、民進党を経て希望の党から無所属になった。だから誤解も多いし風評も厳しい。街頭で市民に罵倒されるが、小川は頭を下げ続ける。
観ながらあなたは気付くはずだ。この映画は小川淳也という個人を被写体にしているが、テーマは日本の政治状況であることに。政治とはすなわち社会でもある。つまりこの作品は、アメリカがイラクに武力侵攻した2003年から現在に至るまでの、僕たちの記憶と記録のドキュメンタリーでもある。この間に日本でもいろいろあった。東日本大震災を機に民主党は政治の表舞台から退陣し、長い安倍政権の時代が幕を開けて、コロナ禍にあえぐ現在に至る。この間の政治の選択は誰がしたのか。どこかの誰かではない。主権者である僕たち一人一人だ。
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